保健医療科学
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特集
喫煙による室内汚染
三次喫煙という新たな課題
戸次 加奈江稲葉 洋平牛山 明
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2020 年 69 巻 2 号 p. 138-143

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抄録

喫煙による健康被害は,有害成分を含む喫煙者本人の主流煙による一次喫煙をはじめ,喫煙時に発生する副流煙や喫煙者が吐き出す呼気中のたばこ煙(呼出煙)による受動喫煙(second-hand smoke),そして洋服や部屋に吸着したたばこ煙(残留たばこ煙)による三次喫煙(third-hand smoke)が知られている.特に三次喫煙については,受動喫煙と比べると一般的な認知度は低く,その有害性についても現時点で人への有害性は立証されていないものの,室内に吸着する残留たばこ煙には,揮発性が高く悪臭を伴うピリジン類をはじめ,揮発性の低いニコチンやたばこ特異的ニトロソアミン類(TSNAs)等多岐に渡る成分が含まれている.三次喫煙は,室内におけるこうした成分に,空気やハウスダストを介して非意図的に曝露を受けることであり,受動喫煙と同様,特に感受性の高い乳幼児や幼児期の子供への健康影響には注意を払う必要がある.

我が国で2020年 4 月 1 日から全面施行された改正健康増進法の中では,受動喫煙対策の強化が主な目的にもされていることから,今後,室内での喫煙機会は大幅に減少していくものと推定される.しかしながら,喫煙可能な場所も未だ半数以上を占めており,これまでの実証実験による報告からも,従来の喫煙場所を禁煙区域に変更するだけでは,残留たばこ煙による三次喫煙の影響を完全に除くことは困難である.さらに,近年普及する新型たばこにおける健康影響や環境汚染への影響については未解明の問題も多く残されていることから,喫煙による室内汚染問題への対応として,今後は,長年の課題である受動喫煙をはじめ,三次喫煙も含めた微量なたばこ煙成分に対する高性能な分析技術と生物学的な影響評価手法を確立することで,喫煙の有害性に関する基礎的な情報を得る必要がある.さらに,短期及び長期に亘る実際の人への健康影響を明らかにしていく上でも公衆衛生分野における継続した疫学的調査研究の実施が必要である.

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© 2020 国立保健医療科学院
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