保健医療科学
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特集
新型コロナウイルス感染症の医療提供体制の振り返りと将来展望
神奈川県の取り組みを中心に
阿南 英明
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 71 巻 4 号 p. 324-334

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抄録

本邦の医療構造の特徴として,高度複雑な病態に対応できる実質的な急性期病床はOECD諸国に比して少なく,医療職の配置も相対的に少ない.また,世界で最も高齢化が進む本邦では高齢者対応や長期慢性病態への対応を重視して体制構築されてきた.強制的に医師や看護師を従事させる仕組みもなく,感染症パンデミック対応に苦慮してきた背景がある.2020年 2 月に発生したダイヤモンド・プリンセス号でのアウトブレイク対応の教訓に基づいて,重症度や医療需要から患者を分類し各々受け皿となる施設を役割分担する体制が整備された.しかし,外来機能の提供,自宅療養患者や高齢福祉施設内の患者の治療介入,COVID-19併存疾患への医療提供など,包括的な過不足ない医療提供体制が十分に構築できていなかった.感染拡大期に急激に増える入院需要に対して病床確保の課題があり,物理的な病床の確保以外に,フェーズに応じた病床拡大縮小に関する協定締結,効率的な病床運用のために,入院基準の見直しや後方受け入れ病床の確保,自宅療養者の健康観察に地域医療が参画する仕組みなどが打ち出された.しかし,徐々にウイルスの特性が判明し,ワクチンや治療法が導入された後でも,種々ある疾病の中の一部としてCOVID-19を位置づけることができず,COVID-19 診療に偏重したという弊害,高齢者施設への医療介入の困難性,臨時医療施設や入院待機ステーションなどの運営の困難性,医療情報を共有する基盤整備の遅れなどの多くの課題が表出した.

コロナの体験から得られた教訓と将来へ向けた対策として,人々の健康維持が困難になるような「有事」に対して,即座に対応できる体制構築を行う健康危機管理の考え方を基軸に検討する必要がある.国から自治体,医療現場や保健所に至る階層化された組織体制と明確な役割や指示命令系統構築,人材育成,病床確保などの医療提供体制の在り方,さらには資機材や医薬品,ワクチンの確保などグローバルな観点で医療提供を確保する「健康安全保障体制」の構築が不可避である.今回のパンデミックで課題となった情報共有基盤整備と国民とのコミュニケーションのあり方は保健医療体制とは異なる専門性を交えた取り組みも求められている.

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© 2022 国立保健医療科学院
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