保健医療科学
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頭頸部癌全国症例登録システムの構築と臓器温存治療のエビデンスの創出
丹生 健一 土井 麻理子
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2023 年 72 巻 4 号 p. 310-316

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抄録

頭頸部には視覚・聴覚・平衡覚・嗅覚・味覚・喉頭などヒトが人として生きていくために欠かすことができない感覚やコミュニケーションに関わる臓器,摂食・嚥下・呼吸など生命維持に必須の臓器が存在し,頭頸部癌の治療では他臓器の悪性腫瘍以上に,根治とともに生活の質の維持が求められる.この困難な命題に答えるため,他の領域に先駆けて,1960年代より手術・放射線治療・化学療法を組みあわせた様々な集学的治療が行われてきた.最近では,内視鏡や手術支援ロボットを用いた低侵襲手術,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬, 中性子補足療法, 頭頸部アルミノックス治療など全く新しい薬物療法が登場し,更に多彩な治療法を選択できるようになった.しかし,頭頸部癌の発生数は年間約48,000 例と比較的少なく,しかも口腔・鼻副鼻腔・上咽頭・中咽頭・下咽頭・喉頭・唾液腺・甲状腺など様々な臓器が含まれる.胃がんや肺がんのように十分な症例数を確保して無作為化介入臨床試験を行い,個々の症例に対する最適な治療法を選択するガイドラインとなるエビデンスを創出することは難しい.

こうした背景から,日本頭頸部癌学会が運営する悪性腫瘍登録事業を整備して,より多くの症例を登録し,関連学会・研究会の協力を得てオールジャパン体制でビッグ・データを活用できる体制を作り上げることになった.無作為化介入試験が困難な機能温存手術,臓器・機能温存治療,機能再建手術等については,web-based Case Report FormをUMINのINDICE上に作成し,全国登録のデータを活用した後方視的観察研究を行うシステムを構築した.最初のプロジェクトとして,HPV関連中咽頭癌患者を対象とした後方視的観察研究を実施し,34施設から746症例が報告された.蓄積されたデータに基づき,p16陽性(HPV関連)中咽頭扁平上皮癌患者に対して,病期に応じた最適な治療戦略,同時化学放射線療法におけるCDDPの最適総投与量などを決定した.今後も本システムを活用して頭頸部癌の診療ガイドラインの根拠となるエビデンスを創出し,生命維持と社会生活に必須の臓器と機能の温存を目指した治療,根治とQOLの両立を目指した治療の最適化を推進してきたい.

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© 2023 国立保健医療科学院
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