保健医療科学
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コロナ禍およびポストコロナにおける規範的意思決定の数理モデルとその実証分析
村上 始須永 直人星野 貴仁舘岡 大貴平塚 将原口 僚平山下部 駿竹村 和久
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2024 年 73 巻 4 号 p. 292-304

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抄録

目的:社会規範は人の社会行動を理解し,説明する上で重要な概念であるとされている.このような人の行動要因を調べることは,ナッジの社会実装に寄与すると考えられる.実際,新型コロナウイルス感染症の予防行動を促す要因について研究が行われている.ここでは,規範的行為の焦点理論とその数理モデルについて説明し,コロナ禍とポストコロナにおける外出自粛に関する分析結果を示す.規範的行為の焦点理論とは,当該行動が記述的規範(多くの人が「何をしているか」という認識に基づく規範)を満たす側面か,指示的規範(集団内の他者が「何をすべきであると思っているか」という認識に基づく規範)を満たす側面のどちらに焦点を当てるかで,行動が規定されることを仮定した理論である. 方法:新型コロナウイルス感染症に関する意思決定場面を題材としたWeb調査を2021年と2023年に行った.これらのデータに対して,規範的行為の焦点理論に関する数理モデルを用いて,意思決定者の注目度に関するパラメータを推定し,その調査年の比較を行った.この比較を通じて,人々の指示的規範・記述的規範への注目度が,コロナ禍およびポストコロナで,どのように変わったのかを意思決定の数理モデルを用いて検討した. 結果:不要不急の外出を控える旨のメッセージの文面に「変異株」の情報を含めると,外出自粛選択率,指示的規範への注目度パラメータがおよそ高くなりやすいことが示された.また,調査年の比較分析の結果,コロナ禍よりもポストコロナにおいて,指示的規範への注目が強まる傾向があった. 結論:指示的規範への注目度が高くなったということは,周りの人々が外出を自粛しているということ(記述的規範)よりも,外出を自粛すべきであるということ(指示的規範)に注目して外出を自粛する行動を選択したと考えられる.本研究からは,「変異株」に関する情報を不要不急の外出を控える旨のメッセージに含めることで,外出を自粛すべきであるということを重視しやすくなり,また,コロナ禍よりもポストコロナにおいてその傾向は強くなることが示唆された.

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