保健医療科学
Online ISSN : 2432-0722
Print ISSN : 1347-6459
ISSN-L : 1347-6459
最新号
多様な分野の行動変容研究と社会実装の現在
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
特集
  • 本間 義規
    原稿種別: 巻頭言
    2024 年 73 巻 4 号 p. 255
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/11/12
    ジャーナル オープンアクセス
  • 科学に基づく新しい政策アプローチ
    池本 忠弘
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 4 号 p. 256-264
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/11/12
    ジャーナル オープンアクセス

    我が国の公共政策において , ナッジは , 「人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れる ように手助けする新たな政策手法」として注目されている . ナッジは , 選択の自由を残し , 費用対効 果の高いことを特徴として , 我が国を含む世界の 400 を超える組織 ( いわゆるナッジ・ユニット ) が , 健康・医療 , 環境・エネルギー , 徴税 , 働き方改革等 , 様々な政策領域において活用している . ナッジを始めとする行動科学の知見の活用を推進する日本版ナッジ・ユニットにおいては , 産学政 官民連携によるオールジャパンの体制により , 行動に起因する社会課題の解決に向けて様々な分野の 議論を行っている . 健康・医療分野においては , 健康と環境保全における相乗効果を目指した取組や , がん検診の受診率向上の取組 , 健康寿命の延伸のための野菜摂取を促す取組 , トレーニングや体を動 かすための取組 , そして新型コロナウイルス感染症対策のための行動変容を促す取組等を題材にナッ ジの活用や留意点について議論してきた . ナッジの活用は , 他の政策手法と同様 , 人々の生活に介入し , 行動様式に影響を及ぼすことがある . とりわけナッジは , 科学的根拠に基づいて実践されることから , その蓋然性が高い . ナッジの活用が 進むにつれ , 近年においては , スラッジと呼ばれる適切ではない活動等 , 倫理面における課題が散見 されるようになってきている . ナッジの活用に携わる者は , 法令の定めるところに加え , 高い倫理性 が求められるものである . 官民問わず , ナッジの受け手にとっての受容性を考慮した上で , 倫理的に も配慮したナッジの活用を推進していくことが求められる .

  • 川中 淑恵
    原稿種別: 解説
    2024 年 73 巻 4 号 p. 265-272
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/11/12
    ジャーナル オープンアクセス

    2024年から開始された第4期特定健康診査(特定健診)および特定保健指導においては,腹囲および体重の減少に加えて,行動変容を含むアウトカム評価が新たに導入されることとなった.特定保健指導は,将来的な生活習慣病の発症予防を目的とし,医療費の抑制効果が期待されている.そのため,第4期特定健診および特定保健指導の見直しにおける議論では,アウトカム評価の導入に対して概ね前向きな意見が多かった一方で,保険者が特定保健指導の成果を求められる責務が,制度に影響を及ぼす可能性が示唆された. 今回の見直しにより,アウトカム評価は行動変容と組み合わせて段階的に評価されることとなったが,保険者が義務として行動変容を客観的に捉えることの難しさや,特定保健指導の目的との齟齬が懸念された.しかしながら,腹囲および体重の減少に加えて行動変容を評価することが,対象者にとってセルフケアに繋がるとの見解が概ね支持された. 行動変容を特定保健指導のアウトカムとして評価することについては賛否が分かれたが,今後,データの蓄積を通じて第4期の計画期間中に更なる検討を進めることが求められている.また,特定保健指導においては,対象者の行動変容に係る情報の「見える化」を推進し,保険者がアウトカムの達成状況を把握し,達成要因の検討を行うことで,対象者に対して質の高い保健指導を還元する仕組みの構築が重要である.今回の見直しを契機に,保険者の創意工夫と実績の積み重ねにより,特定健診および特定保健指導の発展に寄与することが期待される.

  • 福田 英輝, 志方 朗子, 半田 理恵, 北野 久枝
    原稿種別: Practice Report
    2024 年 73 巻 4 号 p. 273-282
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/11/12
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:ナッジ理論を活用した各種検診への受診勧奨が着目されている.本報告は,長崎県佐世保市が作成したナッジ理論を活用した歯周疾患検診受診勧奨ハガキ作成の取組みについて,歯周疾患検診受診率の年次推移とともに報告する. 方法:佐世保市は,ナッジ理論を活用した受診勧奨ハガキを作成し,2021年10月末に40歳,50歳,および60歳の者,合計3,642人に送付した.受診勧奨ハガキを持参して歯周疾患検診を受診した131人を対象として,受診勧奨ハガキの着目点等に関するアンケート調査を実施した.また,佐世保市衛生統計を用いて歯周疾患検診受診率を算出し,年次推移を検討するためJoinpoint解析を実施した. 結果:歯周疾患検診受診者のアンケート調査の結果,45.9%の者は「1年以上通院していない」であった.歯周疾患検診受診のきっかけとして「無料だから」,および歯科診療所の選択理由として「近所だから」とした者の割合は,40歳の者で大きかった.ナッジ理論を活用した受診勧奨ハガキの着目箇所は,受診費用が無料であることを明示した個所が最も着目されていた.歯周疾患検診受診率は,ナッジを活用した受診勧奨ハガキの送付開始した2021年度から有意に増加していた. 結論:ナッジ理論を活用した歯周疾患検診への受診勧奨ハガキでは,「無料」の箇所が最も着目されていた.また,受診勧奨ハガキの送付開始年度から歯周疾患検診受診率は有意に上昇していた.

  • 本村 陽一
    2024 年 73 巻 4 号 p. 283-291
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/11/12
    ジャーナル オープンアクセス

    現在解決が求められている社会課題の多くは人の関与が必要であるため,解決方法それだけでは解決が難しい.例えば健康問題であれば健康の状態が観測できる技術やそれを改善する方法ができても,実際の対象者が,自分の状態を観測する行動をとらず,また観測していても改善する方法を実行しないといった現状がある.持続的社会の実現のために解決が望まれる環境問題や身近な生活(まちづくり)の問題においても,いかに先端的なリサイクル技術や仕組みが開発されても,それらを活用するためには生活者が廃品回収などの行動を日常生活の中で持続することが重要である.まちづくりの取り組みにおいても,行政や企業の努力だけでは十分ではなく,その地域に住む生活者が主体的,持続的に関わることが必要不可欠になっている.つまり,人が行動を主体的に変えること,「行動変容」が問題解決のために極めて重要になっている. こうしたことから近年,行動変容を促す戦略・手法として,行動経済学的手法や「ナッジ(Nudge)」と呼ばれるアプローチや,生活者を理解する行動観察やマーケティング手法の活用が注目され,そのために消費者の購買行動履歴データやインターネット閲覧行動の履歴データなどのビッグデータ分析・活用が期待されている.これらは,従来から各分野において長い歴史があるが,最近のデジタル技術の普及にともなって,データによる記録・集積と,データサイエンスや人工知能技術による集積したデータの活用が一般的になったことで共通の枠組みとしてとらえることができるようになってきた.本稿では,人の行動をデータとして記録・集積し,そのデータを活用する枠組みで「行動変容」を扱う確率的アプローチとベイジアンネットワークと確率的潜在意味解析,それを使った行動変容支援技術への応用事例を紹介する.

  • 村上 始, 須永 直人, 星野 貴仁, 舘岡 大貴, 平塚 将, 原口 僚平, 山下部 駿, 竹村 和久
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 4 号 p. 292-304
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/11/12
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:社会規範は人の社会行動を理解し,説明する上で重要な概念であるとされている.このような人の行動要因を調べることは,ナッジの社会実装に寄与すると考えられる.実際,新型コロナウイルス感染症の予防行動を促す要因について研究が行われている.ここでは,規範的行為の焦点理論とその数理モデルについて説明し,コロナ禍とポストコロナにおける外出自粛に関する分析結果を示す.規範的行為の焦点理論とは,当該行動が記述的規範(多くの人が「何をしているか」という認識に基づく規範)を満たす側面か,指示的規範(集団内の他者が「何をすべきであると思っているか」という認識に基づく規範)を満たす側面のどちらに焦点を当てるかで,行動が規定されることを仮定した理論である. 方法:新型コロナウイルス感染症に関する意思決定場面を題材としたWeb調査を2021年と2023年に行った.これらのデータに対して,規範的行為の焦点理論に関する数理モデルを用いて,意思決定者の注目度に関するパラメータを推定し,その調査年の比較を行った.この比較を通じて,人々の指示的規範・記述的規範への注目度が,コロナ禍およびポストコロナで,どのように変わったのかを意思決定の数理モデルを用いて検討した. 結果:不要不急の外出を控える旨のメッセージの文面に「変異株」の情報を含めると,外出自粛選択率,指示的規範への注目度パラメータがおよそ高くなりやすいことが示された.また,調査年の比較分析の結果,コロナ禍よりもポストコロナにおいて,指示的規範への注目が強まる傾向があった. 結論:指示的規範への注目度が高くなったということは,周りの人々が外出を自粛しているということ(記述的規範)よりも,外出を自粛すべきであるということ(指示的規範)に注目して外出を自粛する行動を選択したと考えられる.本研究からは,「変異株」に関する情報を不要不急の外出を控える旨のメッセージに含めることで,外出を自粛すべきであるということを重視しやすくなり,また,コロナ禍よりもポストコロナにおいてその傾向は強くなることが示唆された.

  • 本間 義規
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 4 号 p. 305-314
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/11/12
    ジャーナル オープンアクセス

    住宅の選択行動は複雑である.「健康性」,「快適性」が選択条件の上位になることは少なく,一方で,居住後に不満に思う割合は多い.2018年に示されたWHO housing and health guidelinesでは,過密居住の解消,過度の寒さを回避し18℃以上を確保すること,過度な暑さを解消すること,家庭内事故を防止すること,バリアフリーについて提言が行われている.こうした背景のもと,日本における住宅の選択行動を取り巻く状況を統計的データ,法制度,既往研究を参考にしながら,日本の住宅の選択実態について概観する.そして,健康で快適な住宅の選択行動に関し,「介入のはしご: The intervention ladder」を軸としながら日本とイギリスの住宅政策における介入状況について考察する.日本では,既に性能表示制度や建築物省エネルギー法などの整備,CASBEE健康チェックリスト等の開発が積極的に進められているものの,住宅の居住性能を評価・判定し,必要に応じて改修命令を出すことのできるイギリスの法制度と比較すると,日本の介入レベルは高くない.居住リテラシーの醸成やインセンティブを用いた誘導政策等が実施されているものの,健康やQOLの観点からも適切な住宅の選択行動をアシストできる何らかの仕組みが求められる.

論文
  • 細川 陸也, 尾島 俊之, 友澤 里穂, 明神 大也, 相田 潤, 近藤 克則, 近藤 尚己
    原稿種別: 原著
    2024 年 73 巻 4 号 p. 315-322
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/11/12
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:健康日本21(第二次)に続き,健康日本21(第三次)の基本的な方向にも,「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」が掲げられている.健康保持増進対策は,中⻑期的視点をもち,継続的かつ計画的に進める必要がある.このためには,PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act cycle)に沿って対策を進めることが重要である.効果的・効率的な地域の健康づくりや保健活動のPDCAサイクルの推進を図るため,国民健康保険の保険者努力支援制度の諸活動に事業評価が導入されている.しかし,先行研究においても,どのような活動が健康寿命の推移と関連するかは明らかとなっていない.そこで,本研究は,国民健康保険の保険者努力支援制度の諸活動の各事業評価スコアと健康寿命の推移との関連を地域(市区町村)レベルで明らかにすることを目的とした. 方法:本研究は,健康寿命の算定の誤差が大きくなる人口1万2千人未満(2021年)の自治体を除く1147自治体を分析対象とした縦断的デザインの地域相関研究である.2017年-2021年の国民健康保険の保険者努力支援制度の事業評価に基づき,市区町村が厚生労働省に提出した各年度の事業評価スコアを用いて,その割合を算出した.また,健康日本21の「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」の考え方に基づき,要介護2以上を不健康な期間とする「日常生活動作が自立している期間」を用いて,男女別に,2017年-2021年の65歳時の健康な期間の平均を算出し自治体の健康寿命とした.各事業評価スコアを説明変数,2017年の健康寿命,課税対象所得・可住地人口密度の対数を調整変数とし,重回帰分析を実施した. 結果:分析の結果,男女ともに,特定健診受診率・特定保健指導実施率・メタボリックシンドローム該当者及び予備群の減少率(男性:β=0.153, p<0.001,女性:β=0.087, p=0.003),地域包括ケアの推進(男性:β=0.059, p=0.043,女性:β=0.065, p=0.020)の事業評価スコア,第三者求償の取組(男性:β=0.059, p=0.041,女性:β=0.067, p=0.017)の事業評価スコアが高いほど,健康寿命の延伸が大きい傾向がみられた. 結論:特定健診受診率・特定保健指導実施率・メタボリックシンドローム該当者及び予備群の減少率,地域包括ケアの推進,第三者求償の取組の事業評価スコアは,健康寿命の推進との関連がみられた.これらの事業内容はPDCAに利用しやすく,健康寿命の延伸に寄与する可能性が示された.

  • 水野 篤, 安田 あゆ子, 中島 勧, 種田 憲一郎
    原稿種別: 報告
    2024 年 73 巻 4 号 p. 323-329
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/11/12
    ジャーナル オープンアクセス

    日本における医療安全体制は,2002年の医療安全対策検討会議以降,診療報酬加算に基づく金銭的インセンティブを活用しながら体制を構築してきた.医療法に基づく監査に加えて,病院機能に関わる第三者評価,第三者認証,さらには2006年からの医療安全対策加算1,2の設定,2018年からの医療安全対策地域連携加算1,2 の設定に基づく他医療機関からの評価により国際的にも高度な医療安全体制を構築している.しかしながら,これまで医療安全地域連携制度の全体像と日本の現状についての報告は少ない.本研究では,日本における医療安全対策,特に地域連携シートと,ピアレビューなどの相互評価および第三者評価に焦点を当て,その全体像と取り組みの特徴について報告する.

  • 日本の国際保健への貢献の必要性
    片桐 碧海, 町田 宗仁
    原稿種別: 論壇
    2024 年 73 巻 4 号 p. 330-335
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2024/11/12
    ジャーナル オープンアクセス

    ワクチン接種は,国際保健分野において最も費用対効果の高い医療投資の一つであり,持続可能な開発目標(SDGs)に含まれる.Zero-dose childrenとは,特に三種混合(DTP=ジフテリア,破傷風,百日咳)ワクチン全3回中1回も受けていない人を指し,国際機関・官民イニシアチブの指標に用いられる.2019年以前は,ワクチン接種率が順調に増加し,2019年DTP-1接種率の世界平均は90%程度であったが,2019年から2021年にかけてDTP-1接種率は減少し,2021年は86%まで減少した.この背景には,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う医療機関の閉鎖・オーバーワーク,ロックダウンや物資不足,ワクチン不信,さらには紛争や気候変動の影響が挙げられる.日本は国際社会の中で,COVID-19ワクチンの世界的な公平な分配を目的としたCOVID-19 Vaccines Global Access (COVAX)や,病院や保健所にワクチンを運搬輸送する「ラスト・ワン・マイル支援」に大きく貢献した.COVAXの活動は2023年末を持って終了し,次はGaviワクチンアライアンスの増資会合が迫る.日本が積極的取り組みを表明し,他国において残存するZero-dose問題に協力することは大きな意義があると考える.

feedback
Top