2024 年 73 巻 5 号 p. 359-368
我が国の健康政策「健康日本21」は,目標値を設定し,その達成を目指すものである.令和6年度から「健康日本21(第三次)」と,これに足並みをそろえて歯科分野では「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」が改正,「歯・口腔の健康づくりプラン」が開始されている.これらの政策では健康の社会的決定要因の概念が取り入れられ,社会環境を考慮しながら,健康寿命の延伸と健康格差の縮小が最上位の目標に設定されている.そしてこの目標の実現のために,ロジックモデルがつくられ,個別の施策や健康目標の相対的な位置関係が階層的に提示されている.さらに施策をその介入効果や介入の性質によって区分けしたアクションプランが示されている.アクションプランにおいては,従来よく行われている健康教育だけでなく,社会環境の影響を考慮し,環境を整える施策やインセンティブやデフォルトの変更を重視した施策も考慮するなど,より実効性に富んだ施策が分かりやすく分類されている.なお,どのような施策が健康格差を縮小または拡大するかについては注意が必要である.健康教室や健診においては,健康意識が高い者ほど参加が多く,リスクの高い人々が参加しないという,いわゆる「逆転するケア(予防)の法則」がしばしば現場の課題となっている.このため,健康格差を縮小するポピュレーションアプローチである「配慮ある普遍的アプローチ」が求められ,歯科においては学校でのフッ化物洗口などが有効とされている.個別の施策を実施していく上では,計画,実行,評価,改善の順にPDCAサイクルを回していくことが求められている.PDCAサイクルを活用するためには,「80歳で20歯以上の自分の歯を有する者の割合」といった短期間での改善が難しい項目を目標値に設定するのではなく,実行や改善が見えやすいアウトプットや中間アウトカムを利用することが近年の流れとなっている.最後に,目標値のみにとらわれると,近年の高齢化に伴う歯が少ない人々の増加や,他の疾患と比較した際のう蝕や歯周病の医療ニーズの多さが見落とされることがある.医科における施策や,WHOの口腔保健の決議にみられる国際的な流れと同様に,日本の歯科界においても,目標値の限界を理解し,必要に応じて他の指標にも目を向ける必要があるだろう.