2025 年 74 巻 1 号 p. 15-27
2008年に,ディーセントワーク,即ち働きがいのある人間らしい仕事は,国際労働機関により報告され,日本においても厚生労働省により推進されている.この実現に向けて,障害者の就労を支える人材の育成も必要となり,新たな制度と養成研修が開始される.この制度改正の時期に,日本における障害者就労支援施策の現状及び今後の展望を人材育成も含めて世界へ発信し,相互に研鑽する機会としたい. 日本の障害者就労支援施策は,障害者の雇用の促進等に関する法律を中心に「障害者雇用率制度」「障害者雇用納付金制度」「経済的負担の軽減施策」「職業リハビリテーション」がある.各種制度が功を奏し,障害者の働く場は広がり量的進展は見られた.一方で,代行ビジネスをはじめ障害者雇用の理念からはずれた雇用も見られる.また“保護主義”により福祉から雇用へ移行できない障害者も存在する.さらに障害者自立支援法施行以降,“市場原理”が導入され,障害者本人不在の効率性が重視された.これらの問題解決に向け,2025年に創設される就労選択支援事業が期待される.就労選択支援に関わる支援者は,基礎的研修や就労選択支援事業従事者研修を受講し,レベルアップを図る必要がある. 基礎的研修は2025年4月から開始され,雇用と福祉の両分野の就労支援に携わる支援者が受講する.内容は,就労支援の目的・理念,就職前から就職後の支援,対企業支援,関係機関の連携等の基礎的な知識・スキルを習得するものである.また,雇用と福祉で障害者就労支援に関わる支援者の多様性を踏まえ,基礎的研修をベースとして,各専門性と経験年数に応じた階層的研修を実施する. さらに,2025年10月以降,就労系福祉サービスの利用を希望する障害者は原則「就労選択支援」を受ける.これは,障害者本人が一般就業,就労系福祉サービス等の利用について,専門支援者と協働して自己選択できるように支援する.就労選択支援の中核的となる就労アセスメント手法は,基本的理念や就労支援プロセス,関係機関との連携等の知識・スキル等を前提とする.就労選択支援に従事する支援者は,基礎的研修を受講した上で,就労選択支援員養成研修で修得する. 以上は日本の障害者就労支援と人材育成だが,国により取り組み方や障害の捉え方は多様であろう.時代や地域を超えて誰もが自分らしく働ける社会を目指し,それを支える人材の育成が望まれる.