2025 年 74 巻 5 号 p. 498-508
Washington Group Short Set on Functioning(WGSS)は障害に関連した新しい指標であり,令和4年に初めて日本の全国調査に導入された.機能障害に起因した社会参加制約のリスクが高い者とそれ以外の者と判定し,人口に占めるハイリスク者の割合や両者間の格差の実態を,国際比較可能な形で把握することがWGSSの目的である.一方,本邦では従来から,障害者手帳や難病診断に基づいて障害を定義している.WGSSに基づく障害統計を適切に活用するためには,従来の定義と対比させたWGSSの尺度特性に関する理解を深めることが肝要である.本研究の目的は,障害者手帳・難病診断の有無とWGSSの判定の関連を分析し,両者によって捕捉される集団の差異,ならびに,加齢がその差異に与える影響について記述することである.令和4年に行われた生活のしづらさなどに関する調査(しづらさ調査)の二次データの中から,5歳以上の男女のデータ(n=11,346,平均年齢64.0±23.4歳)が解析対象者として抽出された.WGSSは,基本的な機能について「主観的な苦労の程度」を問う6つの質問で構成される.6つの質問の中で,1つでも「とても苦労します」,または,「全くできません」と回答した場合「リスクが高い者」と判定した(陽性判定).分析対象者を次の10グループに分類した: 身体障害者手帳の所持者の中で視覚障害(a),聴覚障害(b),肢体不自由(c),内部障害(d)を有する者,障害の種類が不明な者(e),精神障害者保健福祉手帳を所持する者(f),療育手帳を所持する者(g),難病診断を受けたことがある者(h),重複障害を有する者(i),障害者手帳と難病診断のいずれも有さない者(j).グループ別に陽性判定の割合を算出した後,カイ二乗検定を用いたグループ間の比較を実施した.また,各グループ内で,若年者群(65歳未満,Y群)と高齢者群(65歳以上,O群)の間の陽性割合を比較した.全解析対象者における陽性割合は52.6%(Y群;40.7%, O群;60.5%)であった.各グループの陽性割合は,a~jの順番に,92.5%,67.8%,55.0%,33.6%,52.7%,35.0%,46.2%,39.7%,68.2%,53.0%であり,グループ間で有意差を認めた(p<0.05).⒜, ⒝, ⒢以外のグループにおいて,O郡はY群と比べて,陽性割合が有意に高い値を示した(p<0.05).本研究の結果から,障害者手帳と難病診断の情報に基づく障害者の定義とWGSSの判定の間には差異があり,障害種類や年齢によっては,大きな乖離が生じることが明らかとなった.WGSSを利活用する際は,この点に十分に留意する必要がある.