中山茂は,科学史家として高等教育論に関心をもちつづけた人であった.中山が大学に注目した理由は2つある.ひとつは科学の住処としての大学への関心であり,大学史によって,科学史研究を科学思想史から科学の社会史へ展開しようとした.もうひとつは,留学したアメリカの大学院におけるきびしい教育訓練と競争主義の体験である.中山の高等教育論の枠組みは,トーマス・クーンのパラダイム論にもとづく学問の制度化過程論であり,科学技術と社会のあいだに大学という中間構造をおくものであった.代表的な成果として,「近代科学の大学に対するインパクト」,『帝国大学の誕生』,『アメリカ大学への旅』,「大学闘争と大学改革」,「虚学と実学のあいだ」,「ポスト冷戦期の大学と科学技術」を紹介した.中山の当初のねらいのうち,大学史による科学史の書きなおしはおおむね成功し,大学論については,大学紛争,大学改革,教育と試験などが論じられた.