中山茂氏(以後敬称を略す)は,日本を含む東アジアの科学史研究で多くの国際的水準の業績をあげた科学史家である.その活動は,高等教育論や科学技術社会論等におよぶ.そのように多様な成果を可能にした中山の活動を彼の科学史研究の形成とその環境にさかのぼって考察する.中山は,天文学から科学史に転じ,ハーバードでトマス・クーンに学び,続いてケンブリッジでジョセフ・ニーダムに学んだ.以後の多彩な研究活動によって,東アジア科学史とくに中国科学史研究に基づき,ウイッグ史観の克服という20世紀後半の科学史研究の重要な課題の達成に貢献した.また,クーンが提起したパラダイムの概念を可能な限り広く解釈して科学技術の多様な分野の歴史研究に貢献し,多くの研究者を集めた共同研究「科学と社会フォーラム」を成功させた.その成果は,官,産,学,民の4セクターに基づく科学技術の社会史的分析『通史・日本の科学技術』に結実した.