2017 年 13 巻 p. 186-203
科学の視覚表象論では科学的な図を完成後に分析することが多く,分析結果と制作者側の意図や思考との対応が不明瞭であった.本研究では,制作者側にある研究者やイラストレーターの意図を踏まえた制作プロセスを明らかにするため,イラストレーターと研究者によるサイエンティフィック・イラストレーションの協働的制作において両者がどのような知識やアイデアを出し,いかにしてイラストを制作するのかを分析した.脳科学の研究者とイラストレーター二者間における7種の論文・発表用のイラスト制作を対象とした事例研究を実施し,制作プロセスの対話記録,図案,インタビューのデータを組み合わせて分析を行った.その結果,イラスト制作にはイメージの創出プロセスと既存の図の修正プロセスという2種類のプロセスが観察されること,両者がそれぞれの専門知だけでない観点から意見を出し合うことを見出した.本研究の成果は,表現の意図や由来,イラストレーターの創造性を科学論の議論の俎上に載せることに貢献するものである.