日本の心臓移植は,1968年8月に第1例が行われた後,31年後に再開した.この間の,特に1970年代,日本の心臓外科医たちは約10年間沈黙していた.心臓移植の文化的側面に焦点をあて,「文化触変」の視座で沈黙の理由を考察した.
心臓移植は他の臓器移植と違って特別に国際社会から注目された.米国外科医たちが展開した熾烈な心臓移植レースは世界で展開された.世界初の心臓移植を行った南アフリカの外科医バーナードが世界中から称賛されると,以後,堰を切ったように世界中で行われていった.外科医たちの動機の一つは功名心である.日本の伝統的な医者像とは適合できないアメリカ的英雄外科医像は,心臓移植に張りついて,アメリカ中心主義者和田によって持ち込まれた.それまで日本の外科医たちは当然のように米国から外科技術を輸入してきたが,心臓移植にかぎっては日本の伝統的医者像とのあいだで葛藤したため,沈黙してしまったのではないか.