霊長類研究 Supplement
第35回日本霊長類学会大会
セッションID: P33
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ポスター発表
テングザル前胃由来の新種乳酸菌の同定およびその機能特性
*橋戸 南美土田 さやか早川 卓志東野 晃典清野 悟松田 一希牛田 一成
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抄録

コロブス類は葉食に特化した食性を示しており,一部の葉には毒性を示す植物二次代謝産物が含まれている。反芻動物では,前胃に共生する微生物が毒性のある植物二次代謝産物を解毒している。反芻動物同様に複数に分かれた胃をもつコロブス類でも,複胃中の微生物がこれらの物質を解毒することが示唆されているが,その詳細は不明である。近年,次世代シーケンサーを用いた解析によりコロブス類の消化管内微生物叢の構成が明らかになってきたが,各微生物のもつ機能まで調べ上げた研究例はほとんどない。本研究では,コロブス類消化管内微生物がもつ植物二次代謝産物の解毒機能を明らかにすることを目的として,テングザル消化管内微生物の分離培養および生理生化学性状試験を行った。よこはま動物園で飼育されているテングザルの検診時に前胃および直腸内容物を嫌気性検体希釈液に採取し,BL寒天培地に塗抹後,37度嫌気条件下で48時間培養を行った。得られた分離株の16S rRNA遺伝子を用いた系統解析により細菌種同定を行った結果,前胃内容物からのみ既存の種とは異なる新種の可能性の高い乳酸菌が分離された。この菌株の生理生化学性状を調べたところ,最も近縁な種であるLactobacillus delbrueckii subsp. indicusとは異なり,セロビオース,マルトースを含む7種類の糖に対する分解能を示した。またこの新種乳酸菌の16S rRNA遺伝子配列を,先行研究の野生テングザル前胃細菌叢の次世代シーケンス配列データと比較したところ,同種の乳酸菌を野生テングザルも保有しており,飼育野生問わずテングザルに共生する重要な消化管内細菌種であると考えられた。このテングザルに特徴的な新種乳酸菌の生理生化学機能について,テングザルの採食行動や消化,植物二次代謝産物解毒の観点から議論する。

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© 2019 日本霊長類学会
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