宗教研究
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新たな生命倫理への宗教学的視座(<特集>生命・死・医療)
澤井 義次
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2006 年 80 巻 2 号 p. 247-266

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抄録

この論考は、宗教学の視点から、新たな生命倫理の構築への可能性を探究しようとする一つの試みである。ここでは、まず、現代の宗教学の視点から、生と死の意味を再検討したい。そのうえで、宗教学の視点からみた新たな生命倫理の可能性を、イスラーム学・東洋思想の世界的碩学、井筒俊彦の「東洋哲学」の枠組みを手がかりとして論じたい。新たな生命倫理の構築へ向けて根本的に重要なのは、個的存在を全体との連関性において位置づけることである。フランスの歴史家P・アリエスが指摘したように、現代人はこれまで生命を主に個的存在のレベルにおいてのみ捉え、みずからが死すべき存在であることを忘れようとしてきた傾向がある。ところが、たとえば、華厳哲学に関する井筒俊彦の議論が示すように、個的存在の生命を全体の中に位置づけて捉えるとき、個体の死によって全体としての生命圏が生きている、という新たな知の地平が拓けてくる。そこに「永遠の生命」とか「不死」という視点、さらに「生と死のつながり」という視点にもとづく新たな生命倫理への可能性を見いだすことができるであろう。

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© 2006 日本宗教学会
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