本稿は次世代医療基盤法(2018 年5 月施行)に伴う医療情報の社会的役割の変容を考察する.20 世紀末までカルテに代表される診療記録は,主に医療目的の使用であった.しかし診療記録のIT化に伴い,ビッグデータ解析のような情報集積による医療研究が技術的に可能となる.そこで上記の法により,医療研究を発展させるべく個人情報保護法の例外として診療記録の二次利用を法的に許容させたのである.
よって本稿は,①診療記録を集積し研究へ二次利用することに伴う,カルテの存在意味の変容,②診療記録とそれを利用する医師,患者,集積データ管理者や加工者,との関係性の変容,の二点を議論する.議論にあたり,社会学と経済学の交換理論を援用する.カルテの価値が交換過程―売買を含む―を通じ変化する点を考察可能とするからである.したがって本稿は,診療情報をめぐるある種の資源化と商品化に関する事例研究として位置づけられるだろう.