日本医科大学雑誌
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タイ国におけるポリオの血清疫学調査とポリオ生ワクチン (OPV) 接種効果
山田 光昭
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1985 年 52 巻 1 号 p. 20-38

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抄録
日本医大東南アジア医学研究会第11~16次調査団によって, 1977~1982年にタイ国のBangkokおよびChiang Mai Provinceにおいて0~72歳の被検者から採取された血清試料, 1,523検体についてVero細胞を用いたmicro法により血中ポリオ中和抗体価を測定し, それに基づく血清疫学調査成績を述べ, さらにワクチン接種効果についても言及した.
1) OPVを100%接種されている集団を除いた全検体における抗体陽性率は, 1型86.5%, 2型86.6%, 3型80.5%で, 1型が2型と同率である熱帯地方の特徴を示し, 山間部では3型に対し高い陽性率がみられた.
2) 抗体陽性率は, 全員がポリオワクチン接種を受けているChiang Mai大学小児保健施設1982 CCCCの試料を除いて集計すると, 母児免疫の失われることにより1歳児では1~3型とも0~40%と低いが, その後1型では4歳100%, 2型では8歳90.6%, 3型では5歳66.8%および7歳100%と有意差のみられる上昇を示し, 以後は各型とも75~100%であった.
3) 陽性血清 (≧1: 4) の幾何平均抗体価 (log2GM) は1982 CCCCを除いて集計すると, 2型は1歳未満6.07で, 1型3.78, 3型3.14に比べて高く, 1~5歳では, 1型6.00, 2型5.91, 3型5.35で, 型間に有意差を認めなかった. 6歳以後では, 1, 2型は, ほぼ近似した傾向で, 抗体価の加齢による有意差は両型において認めなかったが, 3型は6~19歳で1, 2型より低く, 20歳以上は加齢とともに上昇した.
4) 抗体保有状況の居住地域による差を, 明白なワクチン接種歴のあるヒトからの試料を除いて検討したところ, Chiang Maiの小児に比較的高い抗体レベルがみられ, それぞれ相互に隔絶した地理的位置にある高地部落の住民については, 抗体レベルの地域差が明らかに認められた.
5) 100%ワクチン接種の記録のあるCCCC管理の小児とワクチン接種歴のない小児集団との比較では, 抗体陽性率においてCCCCが高かったが, 陽性血清の平均抗体価はCCCCが低値を示した.
6) CCCCにおいては2型の抗体陽性率が1, 3型に比べて高く, またポリオの各型すべてに対して抗体を保有するもの (完全防御) の割合も高く, 一般にワクチン接種集団にみられる特徴と一致した.
7) CCCCとその親であるFCCCとの間に血中抗体価の相関は認めなかった.
8) ワクチン接種を受けたことのないチェンマイ市内の小中学校の生徒に対するワクチン接種実験で, 接種後の抗体陽性率は各型とも100%を示し, 陽性血清の平均抗体価は, 各型とも対照群に比べ有意に上昇した. また接種6ヵ月後に接種前の4倍以上の抗体価上昇を示したものは, 2, 3型において対照群より有意に高かった.
9) Chiang Mai市内の実業学校の生徒および教員の抗体陽性率は各型ともやや低値を示したが, これはこの集団の94.4%は女性であったことにより説明される.
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