抄録
1983年11月~1984年3月にかけての全国のインフルエンザの流行と東京地域の同疾患の流行とを比較検討し, 次のような成績が得られた.
1) 全国の同疾患の患者発生のピーク期は1984年1月下旬から2月上旬に認められ, 最近の傾向とおおむね一致していた.
2) しかし, 東京地域での同流行のピーク期は1983年12月の第50週に認められ, 全国的傾向とは著しい時間差で認められた.
3) 1) および2) の流行はウイルス学的にAソ連型ウイルスによる流行であった.
1) と2) の流行の時間差について福岡地域を対照に気象学的に検討し, 次のような成績が得られた.
4) 平均気温の上では両地域とも平年に比較して今季は異常低温で流行期を経過したことが認められたが, 地域間に差は認められなかった.
5) 平均相対湿度50%以下の日数 (11月から12月末の間) をみると, 東京地域は平年同期および福岡地域の今季と比較しても有意にその割合の多いことが認められた.
6) 平均相対湿度60%以上の日数 (1月から3月末の間) は東京地域で平年に比べて今季のほうが有意に多く認められた.
7) 以上のごとく, 今季の全国と東京地域のインフルエンザ流行との間に生じたピーク期の時間差に, 平均相対湿度50%以下の日数の占める割合に強い関連性の存在が考えられた.
このことは, 山地15,16) によって検討されていた東南アジアの雨季におけるインフルエンザウイルスの温存理由が, 温度条件を越えた湿度条件によって一部解明できたと考える.