日本神経回路学会誌
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解説
運動学習の統一理論モデル
—運動学習における誤差の予測の重要性—
瀧山 健
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2016 年 23 巻 1 号 p. 14-34

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抄録

腕の到達運動と外乱を用いた実験パラダイムにより,身体運動学習に関わる脳内メカニズムの理解が進められてきた.特に,実験と理論の融合的アプローチが広く進められ,様々な理論的枠組が提案されるに至っている.しかしながら,様々な理論的枠組が場当たり的に提唱され,詰まるところ身体運動学習に関わる脳内メカニズムにおける最も重要な要素は何か,という問題は未解決なままである.著者は近年,“我々は運動する前に暗黙の内に運動誤差を予測している”と想定する誤差の予測モデルを提案した.この誤差の予測モデルは既存の理論的枠組では再現することができなかったランダム学習を再現するための数学的要請に基づいたモデルであり,誤差の予測モデルのみが予測できる現象を行動実験に基づき実証することができ,別々の既存モデルで再現されてきた様々な現象を同一パラメータで再現することが可能であった.興味深いことに,著者は意思決定の知見を一切考慮せずに誤差の予測モデルを提案したものの,この誤差の予測モデルは意思決定の分野でしばしば用いられる価値関数を運動学習の分野に応用したモデルとして解釈できることを本稿にて示す.また,誤差の予測モデルを意思決定へと応用することで,意思決定に関する様々な現象を統一的に解釈できる可能性に対しても言及する.

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© 2016 日本神経回路学会
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