日本神経回路学会誌
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細胞内膜電位から見た小鳥の歌を紡ぐネットワーク
濱口 航介
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2021 年 28 巻 3 号 p. 136-143

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抄録

言語や歌は,音声学習と精密な発声制御を必要とする複雑な知能行動である.キンカチョウやジュウシマツは,同種の個体の歌を手本として歌学習を行い,求愛や縄張り行動に用いるため,音声学習の神経基盤を理解する上で欠かせない実験動物である.歌を学習し,正確にさえずる神経回路の仕組みを調べることで,世代を超えて情報・文化を伝達する脳の仕組みが理解されると期待できる.本解説では,小鳥の歌に関わる基本的な神経回路を概説し,歌のタイミング制御やシークエンス制御が,どのような神経回路同士の相互作用を通じて行われているのか,解説する.その際,細胞内膜電位記録が果たした役割について述べる.一般に用いられる細胞外記録では神経細胞の出力である活動電位を計測するが,細胞内膜電位記録は活動電位に加えて,入力であるシナプス電位を計測できる.特にin vivoで記録されたシナプス電位は,学習によって形成された前シナプス神経細胞集団の活動を反映しており,自然な形で背後にあるネットワーク構造の情報を得ることができる.さらに神経回路網のシミュレーションと実際の神経活動記録の結果を照らし合わせることで,可能なネットワーク構造について,より踏み込んだ考察が可能である.筆者の神経回路網の理論と実験の統合を目指した試みと併せて紹介する.

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