日本神経回路学会誌
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解説
身体運動における筋協調パターンのばらつき
木伏 紅緒
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2024 年 31 巻 1 号 p. 20-28

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抄録

スポーツやリハビリテーションなど,何かしらの目的に向かって身体運動を改善させる必要性が生じた際には,筋肉どうしの協調性を意識するのではないだろうか.ただし,協調性の概念は個人や特定の状況下の中で限定的に意味付けられており,曖昧なものである.このような曖昧な概念を分析するひとつの手段として,筋シナジーの分析が用いられている.筋シナジーの分析では,多数の筋から表面筋電図を取得し,その表面筋電図データに対して非負値行列因子分解を施すことによって,複数の筋どうしが同時に活性化するパターンを分析する.無意識的に捉えられている筋協調を可視化することは,動作や対象者の特性への理解を深めることに役立っている.本稿では特に,「筋シナジーのばらつき」に主眼をおいた.具体的には,筋シナジーの分析方法,筋シナジーの可塑性,歩行における筋シナジーの特性について紹介する.運動中に抽出される筋シナジーは常に一定というわけではなく,課題間や対象者間で筋シナジーの特性にばらつきが生じる.こういった筋シナジーのばらつきは,運動学的特徴と関連していることが多く,研究対象になっている動作や対象者の特性への理解を助ける.筋シナジー分析には限界点もあるが,ロボティクス分野やスポーツ科学分野等,様々な研究分野への展開が期待される分析手法である.

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