日本神経回路学会誌
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最新号
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巻頭言
解説
  • 進矢 正宏
    2024 年 31 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2024/03/05
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    生物の神経系は,運動に伴うばらつきを処理するために進化してきたとも言われるほど,ばらつきは運動制御研究における中心的な概念である.ばらつきを定量する上で最も素朴で単純な方法は,標準偏差や分散を計算することであるが,これらの指標は,データの正規性や定常性を暗に仮定したものであり,試行順序にも依存しない指標であることから,運動学習・慣れ・疲労といった要素を表すことができない.分散や標準偏差は,頻繁に用いられ先行研究の蓄積もあることから,このような限界を知った上で,ばらつきの指標として選択したい.次に,元データの正規性を仮定すると,分散はカイ二乗に従うため,特に試行数が少ない場合は,信頼区間は大きく非対称な分布となる.そのため,個々の被験者に対して,例えば正確性の指標として,10試行といった少ない試行数から計算された標準偏差を用いることは困難となる.統計的仮説検定を用いて,群間や条件間で分散や標準偏差を比較する場合も,いくつかの注意点がある.反復測定のデザインでばらつきの被験者内要因による違いを検討する際は,まず分散の対数をとった後に,対のt検定や反復測定分散分析などを用いることを推奨する.最後に,反証可能性を持った科学的に意味のある研究を行うためには,想定される仮説を正しく検出できる検定力を担保する必要がある.本稿では,想定されるばらつきの差,試行数,被験者数が,検定力にどのような影響を与えるのかを,数値シミュレーションを用いて検討した.このような統計学的基礎は,ばらつきをアウトカムとする研究を行う者にとっては非常に重要な事項なので,本稿を機会に再度確認しておいていただきたい.

  • 冨田 洋介
    2024 年 31 巻 1 号 p. 12-19
    発行日: 2024/03/05
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    運動のばらつきは,個体,課題,環境の変動に対する適応能力を反映することから,運動学習やリハビリテーションにおいて重要である.本稿では,豊富な自由度とその制御機構に焦点を当て,運動のばらつきとの関係性を解説する.ここでは特に,運動のばらつきを測定するために身体運動制御研究で用いられる評価方法と,運動学習の習熟段階に応じた運動のばらつきの変化について解説する.そして,身体運動制御研究で用いられる運動のばらつきの評価を臨床応用するのための課題についても議論する.本稿では運動学習やリハビリテーションにおいて,運動のばらつきの理解が効果的なトレーニングや治療戦略の設計のために重要となる可能性について議論する.

  • 木伏 紅緒
    2024 年 31 巻 1 号 p. 20-28
    発行日: 2024/03/05
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    スポーツやリハビリテーションなど,何かしらの目的に向かって身体運動を改善させる必要性が生じた際には,筋肉どうしの協調性を意識するのではないだろうか.ただし,協調性の概念は個人や特定の状況下の中で限定的に意味付けられており,曖昧なものである.このような曖昧な概念を分析するひとつの手段として,筋シナジーの分析が用いられている.筋シナジーの分析では,多数の筋から表面筋電図を取得し,その表面筋電図データに対して非負値行列因子分解を施すことによって,複数の筋どうしが同時に活性化するパターンを分析する.無意識的に捉えられている筋協調を可視化することは,動作や対象者の特性への理解を深めることに役立っている.本稿では特に,「筋シナジーのばらつき」に主眼をおいた.具体的には,筋シナジーの分析方法,筋シナジーの可塑性,歩行における筋シナジーの特性について紹介する.運動中に抽出される筋シナジーは常に一定というわけではなく,課題間や対象者間で筋シナジーの特性にばらつきが生じる.こういった筋シナジーのばらつきは,運動学的特徴と関連していることが多く,研究対象になっている動作や対象者の特性への理解を助ける.筋シナジー分析には限界点もあるが,ロボティクス分野やスポーツ科学分野等,様々な研究分野への展開が期待される分析手法である.

  • 瀧山 健
    2024 年 31 巻 1 号 p. 29-38
    発行日: 2024/03/05
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    日常生活において,我々が何気なく遂行する身体動作には未だ明らかでない数多くの根本的問題が含まれる.その1つが,どのように身体動作に内在する冗長性を解消しているか,もしくはどのように冗長性を利用しているか,という問いである.この問いに対する1つの仮説が,我々の運動システムは身体動作を課題に関連した成分と課題に関連しない成分とに分解し,課題関連成分を重点的に制御しているという考え方である.そしてこの仮説は,身体動作のばらつきが有する特徴に基づき支持されている.本稿では第一に,課題関連成分・非関連成分を抽出するデータ駆動型手法を紹介する.その後,データ駆動型手法をピアノ演奏動作に適用することにより,スキル学習が運動制御に及ぼす影響の一端を明らかにする.

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