2022 年 14 巻 1 号 p. 52-62
本研究では,草地へのシカ侵入防止技術の開発に向けた基礎的知見を得ることを目的とし,5段張り電気柵と高さ120cmの金属製ネット柵を草地で併用する形で設置し,その侵入防止効果について侵入防止策を何ら講じなかった場合(1年目)と5段張り電気柵のみを設置した場合(2年目)との間で比較し,設置・維持にかかる労力やコストを含めて総合的に評価した.試験は2017年6月~2020年5月にかけての3年間,鹿児島大学農学部附属農場入来牧場内の場内の採草地(2 ha)で行われ,夏季(6~8月)には栽培ヒエ(Echinochloa utilis Ohwi et Yabuno:以下,ヒエ),冬季(10~5月)にはイタリアンライグラス(Lolium multiflorum Lam.)がそれぞれ栽培された.夏季および冬季におけるシカの侵入頭数は対照区で7.4および11.1頭/日,電柵区で1.6および6.1頭/日であったのに対し,併用区でいずれも0頭/日であった.電柵区では冬季にシカの電線間の通り抜けがみられ,併用区では柵を視認後,回避もしくは逃避する状況が多く観察された.対照および電柵区ではシカによる牧草の減収は大きく,それぞれ89~99%および32~92%を示したのに対し,併用区では採食被害がみられなかった.
以上より,5段張り電気柵と高さ120cmの金属製ネット柵の併用は草地において高いシカ侵入防止効果を示し,野生動物を傷つけることなく,視覚的に侵入を防ぐことが示唆された.