2013 年 5 巻 2 号 p. 14-25
埼玉県小川町では,1970年代から有機農業が取り組まれている.その起点をつくったのが霜里農場を営む金子美登氏である.その後,新規参入者が定着し,徐々に有機農業の取り組みは広がりを見せた.小川町では新規参入者が中心となって有機農業に取り組んでいるのが特徴で,その傾向が現在も続いている.
その一方で,2000年以降,下里一区という集落レベルで既存農家による有機農業への転換参入が始まったこの動きは地域農業の衰退を背景に米,小麦,大豆の販路確保や農地・水・環境保全向上対策を活用しながら集落ぐるみの取り組みへと展開した.
その展開要因を検討し,もっとも早く転換参入した既存農家・安藤郁夫氏が地域社会と有機農業をつなぐ役割を担ったこと,そのような取り組みが金子美登氏の有機農業に取り組む姿勢と農業経営のなかから生まれたこと,その両者が地域農業の展開方向を考えて行動していたこと,地域農業の解体過程において有機農業が受容されたことを明らかにした.