2015 年 7 巻 2 号 p. 18-26
本論の問いは,島根県内で農と食とからだをつなぐ3人の女性たちのそれぞれの取り組みを通して,日常的実践の持つ社会変革の可能性について考えることにある.3人の女性の取り組みについては,2014年9月から12月にかけて行ったフィールドワークと聞き取りおよび3人のブログの内容に基づいている.具体的に,農・食・からだの3つはどのようにつながっていったのか,つながることで当事者や周りの人々に何がもたらされたのか,島根県および中山間地域という場が持つ意味,従来の有機農業運動へのインパクト,3. 11の震災以降の社会を生きる上での示唆について,社会学の視点から考える.
本論のキーワードは,「身体性を取り戻す」,「根っこ」,「ゆるさ」である.農・食・からだをつなぐことで,自分自身の物質的な意味での身体を作り直すと共に,社会的な位相も作り直す営みが生まれている.
本論の事例が,島根県および中山間地域という場であることにも,深い意味がある.辺境,僻地等,都会と対極に置かれ,マイナスの価値付与をされた場所ではなく,食,農,からだは,私を作る源であり,3つをつなぐことは,私と他者との関係を一つひとつ,親密なものに変えていく契機となる.固有名詞の世界で特別な関係を築くことで,一人ひとりがかけがえのない私であることを確認できるような関係性が生まれている.震災後をどう生きるかについて,3人の事例は,根っこを持ち,身体性を取り戻し,ゆるく生きていくことの良さを通して大きな示唆をくれている.