抄録
油症は1968年に西日本一帯の広範囲な住民の方々が、熱媒体として使用されていたPCBの混入した食用米ぬか油を摂取することによって起こった食中毒事件です。その後、研究班によってPCDFなどのダイオキシン類も混入していたことがつきとめられ、油症はPCB類とダイオキシン類による複合中毒であったことが証明された。油症の初期には、全身倦怠感、食欲不振、頭重感などの非特異的な全身症状があらわれ、引き続いて、油症に特徴的な症状や所見として、ざ瘡様皮疹、爪の着色、眼脂過多、歯肉部の色素沈着、下肢の知覚過敏あるいは鈍麻、月経不順、乳幼児の成長遅延などがあらわれた。発生して40年が経過しようとしているが、油症患者の多くは依然として多くの症状に苦しんでいる。全国油症治療研究班では長年、データの蓄積と治療法の確立に努めており、近年も新たな知見が得られている。漢方薬やコレスチミドの内服による臨床試験も行われている。近年社会的に関心が高まりつつあるダイオキシン類の健康被害の解明に、油症研究によってに得られた医学的蓄積がその一翼を担うことを期待したい。(オンラインのみ掲載)