日本臨床皮膚科医会雑誌
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論文
ヒトパピローマウイルス66型が検出された鼠径部のボーエン様丘疹症の1例
朱 瀛瑤木花 いづみ大喜多 肇栗原 佑一
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2022 年 39 巻 4 号 p. 567-571

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抄録

77歳,男性.初診3ヶ月前から右鼠径部の皮疹に気づき,増大傾向のため切除目的に当科を受診した.右鼠径部に径1 cm大の境界明瞭な紅色結節を認め,結節の表面は角化を認めず,一部浸軟し乳頭腫状を呈した.病理組織像は,乳頭腫状の表皮変化を呈し,過角化,不規則な表皮肥厚を認めた.表皮全層に有棘細胞様の異型細胞が増殖し,核腫大,異型分裂像,細胞の大小不同を認めた.コイロサイトーシスを認めず,異型細胞の真皮内浸潤を認めなかった.免疫組織染色において,p16 INK4aは表皮異型細胞の核と細胞質に陽性を示した.ボーエン様丘疹症と診断し,有棘細胞癌に準じて腫瘍の辺縁より5 mm離して病変を全摘した.切除断端に腫瘍細胞の残存はなく,2年間経過した時点では再発を認めない.切除組織よりHuman papillomavirus (HPV)のDNA検査を行い,HPV 66型を検出した.一部のHPV型はヒトで発癌性があることが確認されており,子宮頸癌,陰茎癌,肛門癌,および中咽頭癌を引き起こす.発癌性の高いHPVはハイリスク群に分類され,皮膚でも爪部,外陰部の有棘細胞癌,Bowen病,ボーエン様丘疹症において子宮頸癌における粘膜ハイリスク型HPVの検出率が高く,性感染症としての側面を指摘されている.本症例で検出されたHPV 66型は粘膜ハイリスク型の一型であった.HPV 66型はボーエン様丘疹症での検出は稀であるが,皮膚においても発癌性がある可能性が示唆された.近年,子宮頸癌に対するHPVワクチンは世界的に広まっている.現在HPVワクチンは一部のHPV型の感染しか防ぐことができないが,本邦での普及がHPV関連腫瘍の発症率低下に寄与する可能性が期待できる.

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