日本臨床皮膚科医会雑誌
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論文
長期観察し得た軽快と再燃を繰り返した環状弾性線維融解性巨細胞肉芽腫の1例
髙杉 亜里紗和田 直子
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2022 年 39 巻 4 号 p. 578-582

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抄録

70歳,男性.約30〜40年前より,躯幹,四肢に環状の紅斑が出現し,一時期のみ外用治療をしたが無効のため中止,その後長年放置していた.当院泌尿器科通院を機に当科を初診.項部,上背部,両上肢に手掌大までの辺縁がわずかに隆起する環状の紅斑が多発していた.病理組織学的所見で真皮内に多核巨細胞を含む組織球よりなる肉芽腫の形成,Elastica van Gieson染色により真皮浅層の弾性線維の減少,巨細胞内に貪食された弾性線維の断片を認めたことから,環状弾性線維融解性巨細胞肉芽腫(annular elastolytic giant cell granuloma: AEGCG)と診断した.トラニラスト内服を開始,7ヵ月後に皮疹は退色傾向を示したが,その2ヶ月後に再燃,一時的な軽快はトラニラストの効果ではなく自然経過と思われた.嘔気や胃部不快感の副作用も生じたためトラニラストを中止し,その後無治療で経過観察した.約3年間の経過中,皮疹は数ヶ月単位で増悪と軽快を繰り返したが,大腸ポリープ切除後や腰椎圧迫骨折後には軽快傾向を認めた.AEGCGの治療にはステロイドの外用や内服,トラニラスト,ジアフェニルスルフォン,エトレチナートの内服などが行われているが,いずれも十分な奏功を示すとはいえない.自験例では結果的に有効な治療を提供できなかったが,患者はむしろ過去に効果の感じられない外用治療を長期間行ったことへの不満が大きかった.効果が乏しいと判断された治療を漫然と継続することは患者に負担を強いることになり,皮疹が患者のQOLに及ぼす影響や患者の希望に配慮し,有効な治療が見いだせない場合は経過観察のみとするのも選択肢になることが示唆された.

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