2019 年 12 巻 2 号 p. 79-86
本論文は.静電気対策に関わる最新の国際規格である IEC 60079-32-1 (2013)で採用された着火性ブラシ放電を防止するための液体のタンク充てん流速制限ついて検討する.この流速制限式には,規格において慣習的なタンク径と配管径の関数となる一つの式で表すため,タンク径,タンク高さと直径の比および液体の導電率(電荷緩和時間)に対して適用範囲があるが,この適用範囲外でも,この流速制限を導出した理論モデル手法を用いて改めて計算すれば,対象の充てん工程に正確に適合した流速制限を求めることができる.接地タンク内に部分的に充てんされた帯電液体の電荷緩和は,液面で媒質が異なる気相との界面があるため液体の誘電率と導電率から決まる電荷緩和時間よりも多少長くなるが,この規格の流速制限の導出では,この電荷緩和時間の2倍とした過大評価となる電荷緩和時間を仮定している.本論文では,接地容器に部分的充てんされた帯電液体の電荷緩和を表現する一般化理論を提示し,電荷緩和がタンク高さと直径の比および液体の充てん率に依存するという理論を修正することも含めて,流速制限を導出するための理論モデル手法を叙述する.さらに,この修正理論との比較および適用範囲外となる実際のタンカー充てん作業への応用を示す.