労働安全衛生研究
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12 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
巻頭言
原著論文
  • 大澤 敦
    原稿種別: 原著論文
    2019 年12 巻2 号 p. 79-86
    発行日: 2019/06/28
    公開日: 2019/06/29
    [早期公開] 公開日: 2019/03/28
    ジャーナル フリー

    本論文は.静電気対策に関わる最新の国際規格である IEC 60079-32-1 (2013)で採用された着火性ブラシ放電を防止するための液体のタンク充てん流速制限ついて検討する.この流速制限式には,規格において慣習的なタンク径と配管径の関数となる一つの式で表すため,タンク径,タンク高さと直径の比および液体の導電率(電荷緩和時間)に対して適用範囲があるが,この適用範囲外でも,この流速制限を導出した理論モデル手法を用いて改めて計算すれば,対象の充てん工程に正確に適合した流速制限を求めることができる.接地タンク内に部分的に充てんされた帯電液体の電荷緩和は,液面で媒質が異なる気相との界面があるため液体の誘電率と導電率から決まる電荷緩和時間よりも多少長くなるが,この規格の流速制限の導出では,この電荷緩和時間の2倍とした過大評価となる電荷緩和時間を仮定している.本論文では,接地容器に部分的充てんされた帯電液体の電荷緩和を表現する一般化理論を提示し,電荷緩和がタンク高さと直径の比および液体の充てん率に依存するという理論を修正することも含めて,流速制限を導出するための理論モデル手法を叙述する.さらに,この修正理論との比較および適用範囲外となる実際のタンカー充てん作業への応用を示す.

  • 山口 篤志, 岡部 康平, 池田 博康
    原稿種別: 原著論文
    2019 年12 巻2 号 p. 87-93
    発行日: 2019/06/28
    公開日: 2019/06/29
    [早期公開] 公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー

    1970年に高齢者の人口は総人口の7%を超えて高齢化社会に突入し,その後,高齢者支援の問題が浮き彫りとなっている.現在では,それら問題への対策の一つとして,介護ロボットや生活支援ロボットをはじめとする介護機器の開発が注目されている.これら介護機器は,介護者の労働作業のアシストや,被介護者や高齢者を抱え上げるだけの出力が要求される.一方で,介護機器の分野においては,介護現場における動作要求仕様を十分に満足する安全技術は未だ確立されていないのが現状である.安全技術の確立のためには,人骨の耐荷重を明らかにする必要があるが,倫理上および個人情報保護の観点から,人骨の代替として人工骨の利用が検討されている.人体組織の物理特性を模した生態材料を使用した人工骨の開発は進められているが,その強度評価試験は確立されていないため,人工骨の再現性や妥当性を確認することができない.そこで本稿では,人工骨の曲げ強度評価試験を検討することを目的に,実験的に得た人工骨の曲げ強度と有限要素解析によって得た人工骨の曲げ強度の比較を行い,人工骨の強度評価に対する有限要素解析の有効性を検討するとともに,有限要素解析を利用して橈骨および尺骨を対象に複数の負荷の向きに対する曲げ強度を示している.その他,海綿骨が人工骨(または人骨)の曲げ強度に及ぼす影響について検討し,その影響が小さいことを示している.

短報
  • ―カーボンナノチューブについて―
    小野 真理子, 山田 丸
    原稿種別: 短報
    2019 年12 巻2 号 p. 95-99
    発行日: 2019/06/28
    公開日: 2019/06/29
    [早期公開] 公開日: 2019/03/28
    ジャーナル フリー

    カーボンナノチューブ(CNT)は,日本において,安定した性質の製品が大量かつ安価に供給できる製造法が開発された.CNTは少量でも樹脂の特性を向上させることが可能なため,産業への応用が期待される材料であり,使用量が増加している.CNTはナノマテリアルであるため曝露対策が必要であるが,曝露測定を行う際には,CNTの飛散の特性を考えてサンプラーを選定する必要がある.本研究では,模擬的に発生したCNTエアロゾルを衝突型の多段インパクターで捕集して,炭素分析により炭素成分の情報と粒径の質量分布,走査型電子顕微鏡観察による形態の情報を得た.CNTは凝集粒子として飛散することが多いが,CNTの種類によっては単独の短い繊維が繊維状粒子として飛散するものがあることを観測した.凝集粒子を多段インパクターで捕集する際の留意点を明らかにし,以前提案したCNTの定量法の妥当性を確認した.

  • 板垣 晴彦
    2019 年12 巻2 号 p. 101-106
    発行日: 2019/06/28
    公開日: 2019/06/29
    [早期公開] 公開日: 2019/03/22
    ジャーナル フリー

    爆発火災事例について,災害規模曲線を用い,発生件数と重篤度について分析した.災害規模として死傷者数,発生頻度の密度関数として事故件数の累積確率を採用したところ,両対数グラフ上において直線関係が認められた.その直線の傾きは重篤度を表しており,発生件数とともにどのように遷移するかを調べた.全産業の平均については,年月の経過に伴い,まず発生件数が減少し,その後に重篤度が低くなったとわかった.化学工業の重篤度は建設業の重篤度よりも明瞭に高かった.ただし,年月が経過した際の重篤度の変化は,いずれも明確ではなかった.さらに,業種や災害の種類別についての分析結果が示された.

  • 山田 丸, 鷹屋 光俊
    原稿種別: 短報
    2019 年12 巻2 号 p. 107-111
    発行日: 2019/06/28
    公開日: 2019/06/29
    [早期公開] 公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー

    個人サンプラーNWPS-254(柴田科学)で粉じんを捕集する際の,フッ素樹脂処理ガラス繊維フィルター4種類(T60A20,TF98,TX40HI20WW,PG60)の粒子捕集効率を評価した.実験では,エアロゾル発生部,フィルター(NWPS-254にセットし2.5 L/minでエアロゾルを通気),および測定装置からなり,それぞれを導 電性チューブで繋いだ評価システムを用いた.粒子捕集効率は,静電分級器で分級した塩化カリウムエアロゾ ル(30~500 nmの単分散10粒径)を用い,フィルター通過前後の粒子数濃度を凝縮核カウンターで測定することで求めた.その結果,いずれのフィルターも粒径100 nmにおいて捕集効率が最も低くT60A20が87.0%,TF98が91.9%,TX40HI20WWが99.6%,PG60が99.7%であった.一方,作業環境測定基準の,300 nmの粒子を95%以上捕集する性能を有するものに限るという基準はすべてのフィルターで満たしていた.

  • -γH2AXを指標に評価したDNA損傷強度の違い-
    豊岡 達士, 祁 永剛, 王 瑞生, 甲田 茂樹
    原稿種別: 短報
    2019 年12 巻2 号 p. 113-118
    発行日: 2019/06/28
    公開日: 2019/06/29
    [早期公開] 公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー

    MOCA(またはMBOCA)と呼ばれる3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンは, ウレタン樹脂の硬化剤として利用されているが, 職業性膀胱がん引き起こす可能性がある物質としても知られている. DNA損傷の生成は発がんにおける重要なファーストステップであり, MOCAがDNA損傷性を有することはこれまでの遺伝毒性試験の結果より明らかである. 一方で, MOCAがDNA損傷の中でも最も重篤な損傷であり発がんと密接な関係があるDNA二本鎖切断を生成するか否かについては未だ不明である.また,MOCAの構造類似化合物であり,MOCAと同用途で使用されている4,4’-ジアミノジフェニルメタン, 4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン, 4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンについて,そのDNA損傷誘導強度を同一試験系で比較検討している研究は存在しない. 本研究では, MOCA及びその構造類似化合物3種の有害性をより的確に把握することを目的に, DNA二本鎖切断の生成指標として近年注目されているリン酸化ヒストンH2AX (γH2AX)に着目し, MOCA の DNA二本鎖切断生成の可能性を検討すると共に,MOCA及びその構造類似化合物について DNA 損傷強度の比較を実施した. 被験物質4種全てで, γH2AX誘導が認められたが,中でもMOCA及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンが特に強いγH2AX誘導が観察された. 本研究は, γH2AXを指標にMOCA及び構造類似化合物がDNA二本鎖切断を生成する可能性を示唆するとともに, その損傷誘導強度の違いを明らかにしたもの である. 本研究の知見は, 化学物質のリスク評価に重要な情報を提供すると考えられる.

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