労働安全衛生研究
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原著論文
マトリックス効果を補正する液体クロマトグラフィ̶タンデム型質量分析装置を用いたヒト尿中芳香族アミン類の定量方法
須田 恵 柳場 由絵豊岡 達士王 瑞生甲田 茂樹
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2021 年 14 巻 1 号 p. 3-14

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抄録

平成27年に,国内化学工場の複数の労働者に職業性膀胱がんが発生したと報告され,当該工場で使用されていたオルト-トルイジン(OT)をはじめとする芳香族アミン類が,膀胱がん発生の原因物質として疑われている.特にOTについては,気中濃度が許容濃度以下であったにも関わらず,作業者の尿には高濃度のOTが検出されており,作業者は経皮ばく露を受けたのではないかと考えられている.生物学的モニタリングとして,OT の尿中濃度定量方法については,NIOSHのMethod 8317が十分な根拠を持った分析方法として知られている.一方,労働現場における作業者尿の分析では,複合ばく露時の各成分の分析及び相互影響の確認が必要であるが,当該分析方法では,アニリン (ANL)の複合ばく露は想定されているものの,同時ばく露の可能性のある他の化学物質の相互影響について未検証であることや,尿成分によるマトリックス効果について検証がなされていないこと等,いくつかの欠点ある.そこで,本研究で我々は,現場で使用されていた 6種類の芳香族アミン類:OT,ANL,2,4-ジメチルアニリン(DMA),オルト-アニシジン(ANS),オルト-クロロアニリン,パラ-トルイジンおよびその代謝物について,液体クロマトグラフィ-タンデム型質量分析装置を用い,複数の芳香族アミン類およびその代謝物が解析でき,なおかつ尿成分によるマトリックス効果も補正できる分析方法の開発を行った.本開発方法を用いて,現場作業者尿を分析したところ,OT,ANL,DMA,ANSについては,十分に検出することができた.また,我々が開発した分析方法は,変動係数(3回測定)が設定定量下限値から計算される誤差範囲内であり,マトリックス効果の補正もまた十分に機能しており,過小評価を最小限にできた.これらのことから,芳香族アミン類の生物学的モニタリングに適した分析方法であるといえる.

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© 2020 独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
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