2021 年 14 巻 1 号 p. 39-49
本研究は,小売業,飲食店,社会福祉施設における労働災害が減少(または横ばい)傾向をみせている法人等を対象に,労働災害防止に関する取り組み事例を調査し,効果的な取り組み,労働災害防止対策推進上の課題の抽出等を行った.効果的な取り組みとして,本社・本部が店舗・施設の安全管理を主導的に担い,本社・本部の安全衛生委員会・幹部会等に店舗・施設の担当責任者を参加させ,そこでの決定事項を迅速かつ確実に実行させていた.また,具体的な労働災害防止対策については,小売業では,事業者による保護具の支給等,滑りやすい状態の除去,危険な作業の廃止等が行われていた.飲食店では,深刻な人手不足対策として作業工数の削減に取り組み,それによる設備面の対策,危険な作業の廃止等が行われ,安全性の向上につなげられていた.社会福祉施設では,老人福祉施設の腰痛対策として要介護者の移乗作業の機械化等が進められていた.安全教育については,eラーニング(小売業),雇入れ時教育の充実(飲食店),介護研修での安全教育(老人福祉施設),定期的な安全教育(障害者支援施設)等が行われていた.今後の課題としては,3業種とも,総じて安全意識啓発につながる日々の安全活動があまり行われていないこと,飲食店でのアルバイトに対する安全教育(雇入れ時教育,OJT教育以外)や,社会福祉施設の転倒災害防止対策はほとんど見受けられないことがあげられ,これら課題の解消策を検討することが求められる.