労働安全衛生研究
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短報
芳香族アミン類MOCAのDNA酸化損傷に関する研究 -ラット肝臓における8 -ヒドロキシ-2’-デオキシグアノシンの検討-
小林 沙穂 本岡 大社柏木 裕呂樹豊國 伸哉小林 健一
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2023 年 16 巻 1 号 p. 45-49

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抄録

芳香族アミン類の一種である3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)は,ウレタン樹脂の硬化剤等に産業利用される一方,国際がん研究機関 によりグループ1(ヒトに発がん性あり)に分類され,労働者の健康影響が懸念されている.MOCAの発がん過程には,肝臓をはじめとした各臓器で代謝される際に生じる活性酸素種(ROS)やDNA付加体によるDNA損傷が関係すると考えられているが,その中でもROSによって引き起こされるDNA酸化的損傷である8-ヒドロキシ-2’ -デオキシグアノシン(8-オキソグアニン:8-OHdG)は,高頻度に発生し,DNA複製時のG→Tの点突然変異を惹起する.しかし,実験動物においてMOCAばく露が実際に変異原性の高い8-OHdGを引き 起こすか調べた研究は我々の知る限り存在しない.

そこで本研究では,ラットを用い,肝臓におけるMOCAばく露が十分に期待できる経口投与法により,0(対照), 0.4, 2, 10, 50mg/kg/日の用量で 週3回2週間の反復ばく露を実施し,その標的臓器である肝臓について,病理解析及び8-OHdGの生成レベルを検討した.その結果,病理所見では,50mg/kg/日投与群において空胞変性が認められた一方, 8-OHdGは,0.4mg/kg/日投与群を除いて用量依存的な若干の増加傾向がみられたが,いずれも有意な差は認められなかった.以上から,少なくとも8-OHdGはMOCAにより引き起こされる発がんメカニズムの主原因ではないと推察される.

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© 2023 独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
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