労働安全衛生研究
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16 巻, 1 号
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巻頭言
原著論文
  • ̶労働時間上限規制の妥当性の検証̶
    藤井 英彦
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 16 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    [早期公開] 公開日: 2022/10/27
    ジャーナル フリー

    近年,長時間労働は労働者の脳血管疾病や精神疾患を発症させ,場合によっては自ら命を絶つケースも見られる等社会的な問題となっている.政府は,働き方改革を提唱し,2019年4月に労働関連法を改正し,時間外労働の上限について,これまでの「実質的な上限なし」の制度から,単月100時間未満,複数月で月平均80時間を上限とし,上限を超過した場合には罰則を設けるという過重労働防止策を実施した.本研究では,政府が設けた時間外労働の上限規制の妥当性を検証する目的で,労働時間と労働者の主観的健康感との関係に関して,労働者の主観的健康感が悪化する労働時間数を,パネルデータを用いて分析した.その結果,月間労働時間が210時間を超えると労働者の健康状態の悪化することが統計的に明らかになった.月間労働時間210時間は時間外労働に換算すると50時間に相当することから,2019年4月に設けられた時間外労働時間単月で100時間,複数月で月平均80時間という上限規制は,労働者の健康障害を防止する観点から見ると必ずしも十分とは言えない.また,性別により労働者の主観的健康感が悪化する労働時間数が異なり,女性の閾値の低いことが明らかになった.一方,仕事の自律性という仕事管理が,長時間労働に伴う主観的健康感状態の悪化を緩和することが明らかになった.

  • 柴田 圭, 大西 明宏
    原稿種別: 原著論文
    2023 年 16 巻 1 号 p. 11-27
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    [早期公開] 公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー

    休業4日以上の労働災害において転倒は,現在では4件に1件の割合で発生しており,最も身近であり防止すべき労働災害である.労働環境の改善や運動の啓発等の努力がなされているものの,転倒災害が減少する兆しが見られない.そのため,さらなる転倒リスクの低減の方向性として,これまでほぼ考慮されてこなかった転倒発生直前での被災者の行動様式に着目し,行動様式が転倒リスクに及ぼす影響を明らかにする必要がある.そこで,本研究では,厚労省公開の職場のあんぜんサイトのデータより, 2017年の休業4日以上の事故の型が転倒の労働災害7,167件を対象に,転倒発生直前の行動様式を集計・分類し,今後の災害防止を効果的に推進するために必要な基礎的な情報を得るために分析した.集計は年代別,業種別,転倒の原因別,とりわけ代表的な転倒原因であるすべりの原因別に行った.傾向として,全業種では,若壮年から中年にかけて,水系で濡れた床面に対して複雑動作でのすべり転倒リスクが高く,凍結・積雪面に対して純粋歩行でのすべり転倒リスクが高い.高年齢になると,ながら歩行でのすべり転倒リスクが高い.また,若壮年では,ながら歩行でのつまずき転倒リスクが高く,中年では,各種歩行中のつまずき転倒リスクが高い.また,若壮年では,ながら歩行での踏み外し転倒リスクが高い.さらに,小売業,社会福祉施設,陸上貨物運送事業では,行動様式による転倒リスクの傾向が各業種特有の作業内容・環境に依存することが分かった.

事例報告
短報
  • 小林 沙穂, 本岡 大社, 柏木 裕呂樹, 豊國 伸哉, 小林 健一
    原稿種別: 短報
    2023 年 16 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    [早期公開] 公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    芳香族アミン類の一種である3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)は,ウレタン樹脂の硬化剤等に産業利用される一方,国際がん研究機関 によりグループ1(ヒトに発がん性あり)に分類され,労働者の健康影響が懸念されている.MOCAの発がん過程には,肝臓をはじめとした各臓器で代謝される際に生じる活性酸素種(ROS)やDNA付加体によるDNA損傷が関係すると考えられているが,その中でもROSによって引き起こされるDNA酸化的損傷である8-ヒドロキシ-2’ -デオキシグアノシン(8-オキソグアニン:8-OHdG)は,高頻度に発生し,DNA複製時のG→Tの点突然変異を惹起する.しかし,実験動物においてMOCAばく露が実際に変異原性の高い8-OHdGを引き 起こすか調べた研究は我々の知る限り存在しない.

    そこで本研究では,ラットを用い,肝臓におけるMOCAばく露が十分に期待できる経口投与法により,0(対照), 0.4, 2, 10, 50mg/kg/日の用量で 週3回2週間の反復ばく露を実施し,その標的臓器である肝臓について,病理解析及び8-OHdGの生成レベルを検討した.その結果,病理所見では,50mg/kg/日投与群において空胞変性が認められた一方, 8-OHdGは,0.4mg/kg/日投与群を除いて用量依存的な若干の増加傾向がみられたが,いずれも有意な差は認められなかった.以上から,少なくとも8-OHdGはMOCAにより引き起こされる発がんメカニズムの主原因ではないと推察される.

調査報告
  • -提供するサービスの違いに焦点を当てた標本調査-
    平内 和樹, 菅間 敦, 島田 行恭
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 16 巻 1 号 p. 51-64
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    [早期公開] 公開日: 2022/10/07
    ジャーナル フリー

    2019年の社会福祉施設における労働災害の発生件数は,2017年の同発生件数と比較して15%増加している.厚生労働省は第13次労働災害防止計画を策定し,近年増加傾向にある社会福祉施設の労働災害を減少させるために各種の取り組みを行っている.本研究では,厚生労働省から提供された労働者死傷病報告を用いて,社会福祉施設で発生した「動作の反動,無理な動作」および「転倒」に関連する労働災害の傾向を調査する.また,社会福祉施設が提供するサービスの内容に応じた系統に分類し,各サービス系統による労働災害発生傾向に違いがあるのかを調査する.単純無作為の標本調査に基づき,労働者死傷病報告から年齢,経験年数,作業の状況,事故の原因などの労働災害の特徴となる項目を抽出した.その結果, (1)高年齢かつ非熟練労働者での労働災害占有率が高いこと,(2)動作の反動による労働災害は,ほとんどが腰部の負傷であり,単独での移乗作業で発生していること,(3)転倒による労働災害は,濡れた面での滑りや障害物でのつまずきにより多く発生していること,(4)発生する事故の種類,作業の状況,事故の原因などの傾向はサービス系統によって異なることを示した.

  • 小林 沙穂, 柏木 裕呂樹, 豊岡 達士
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 16 巻 1 号 p. 65-70
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    [早期公開] 公開日: 2023/01/14
    ジャーナル フリー

    in vitro毒性試験は,一般的に“単回”ばく露により実施される.一方,労働者の化学物質ばく露と関連した遅延性疾患 (例: がん) の背景には,“慢性的”ばく露が関連すると考えられる.そのため,反復ばく露による毒性評価は,作業現場のばく露形式に近い毒性情報として,労働衛生学的に有用となり得る.しかし反復ばく露によるin vitro毒性試験の実施例は限定的であり,単回ばく露との差異に関する情報は殆ど存在しない.

    そこで本研究では,in vitro反復ばく露毒性試験法の構築に向けた基礎情報の取得を目的に,職業性膀胱がん関連物質MOCAを例に, 4日間のin vitro反復ばく露を行い,単回ばく露と毒性影響を比較検討した.その評価項目には,細胞毒性をはじめ,MOCA毒性発揮の引き金となるシトクロムP450 (CYP) 代謝酵素,がん細胞の増殖や生存と密接に関わるERK及びAKTの発現レベルを採用した.その結果,反復ばく露は単回ばく露と比べ細胞毒性が減弱化し,より低濃度でERKが活性化する場合があった一方,AKTや一部のCYP代謝酵素は,陰性対照群間に違いがみられた.in vitro実験系において,MOCAを例に反復ばく露は単回ばく露と異なる影響が生じる可能性を見出した点は,労働衛生学的にも重要な知見であり,in vitro反復ばく露毒性試験法の構築に向けた重要な一歩となると考えられる.

  • 高橋 明子, 三品 誠
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 16 巻 1 号 p. 71-82
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    [早期公開] 公開日: 2023/01/14
    ジャーナル フリー

    建設現場では労働災害防止のための様々な工学的対策や管理的対策が実施されているが,作業者がリスクを承知で不安全な行動をとるリスクテイキング行動に対してはこれらの対策で十分に防ぐことができない.そのため,作業者のリスクテイキング行動の促進要因と安全行動の促進要因を定量的に調べ,これらを基に有効な安全対策を検討する必要がある.本研究は定量的な検討のための予備調査として,ベテランの建設作業者18名を対象に,脚立作業のリスクテイキング行動についてインタビュー調査を行い,リスクテイキング行動と安全行動の促進要因を抽出した.その結果,リスクテイキング行動の促進要因は,ベテラン作業者,初心者ともに,4カテゴリー(【作業者の内的要因】,【経験的要因】,【状況的要因】,【他者の影響】)が抽出されたが,初心者のほうがベテラン作業者よりも多くのサブカテゴリーが認められた(初心者:14サブカテゴリー,ベテラン作業者:9サブカテゴリー).一方,安全行動の促進要因は,作業経験別の特徴はあまり見られず,作業者の内的要因を中心とした7カテゴリー(【安全・作業に関する知識・スキル】,【自己の能力・立場に関する自覚】,【ケガ・事故の影響の認識】,【作業(方法・場所)に関する認識】,【作業への主体的な関わり】,【経験・具体的行動】,【他者からの支援・影響】)が抽出された.今後はこれらの知見を基に,作業者の安全行動に着目した認知行動モデルを定量的に検討し,有効な安全対策の提案を目指す.

研究紹介
  • 庄山 瑞季
    原稿種別: 研究紹介
    2023 年 16 巻 1 号 p. 83-86
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    [早期公開] 公開日: 2023/01/23
    ジャーナル フリー

    粉体を取扱う事業場において,静電気が原因とされる火災・爆発事故が後を絶たない.本稿では,異符号に帯電させた粒子群の混合により粉体供給における電荷蓄積を軽減し,放電を抑制する方法について紹介する.振動と静電場によって粒子を浮揚させる2台の装置から,同一または異なる種類の荷電粒子を分散させた状態で連続的に供給し,装置間で瞬時に混合しながら堆積させる実験を行った.その結果,各装置の電場の向きによって堆積粒子の混合状態が変化し,各装置から逆極性の荷電粒子を供給したとき粒子は均一に混合されることが分かった.測定した浮揚粒子の比電荷を用いて空間電場と粒子の軌跡を計算し,混合メカニズムを解明した.さらに,粒子の混合状態をシャノンエントロピーによって定量的に評価した.

  • 島田 行恭, 佐藤 嘉彦, 高橋 明子
    原稿種別: 研究紹介
    2023 年 16 巻 1 号 p. 87-92
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    [早期公開] 公開日: 2023/01/26
    ジャーナル フリー

    平成28年6月1日より,労働安全衛生法第57条第1項の政令で定める物及び第57条の2第1項に規定する通知対象物に対するリスクアセスメント(Risk Assessment;以下RA)等の実施が義務化されている.労働安全衛生総合研究所では,化学物質を取扱う事業場でのプロセス災害(火災・爆発等)発生を防止するためのRA等の進め方の“あるべき姿”を示した技術資料(JNIOSH-TD-No.5)をまとめ,公開している.一方,化学物質のRA等の実施には,化学物質の特性の理解や化学反応に関する知識などを必要とし,RA等実施のために参考となる情報・資料や支援ツールの提供が望

    まれている.そこで新たに「化学物質リスクアセスメント等実施支援策に関する研究」と題したプロジェクト研究を立

    ち上げ,化学物質の危険性に焦点を当てたRA等の実施を支援するための方策について検討し,RA等実施の参考となる資料や情報を2冊の技術資料(JNIOSH-TD-No.7,JNIOSH-TD-No.8)にまとめている.また,その他にも,暴走反応及び混合危険に対するRA等を実施するためのデータを整備するとともに,反応危険を特定するためのツールを開発

    している.本稿ではこれらの研究成果物について紹介する.

  • 松田 侑也, 高松 宜史, 清水 崇一
    原稿種別: 研究紹介
    2023 年 16 巻 1 号 p. 93-98
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    [早期公開] 公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー

    海外において,火災で発生する有害物質に曝される消防隊員は,将来的に健康を害するリスクを有しているとされており,それを低減するための対策が既に講じられている.

    令和2年度の検証では,一般的な建築材料や家庭用品の材料から発がん性を有するVOCであるBZ発生時の火災環境とBZ濃度の関係と,除染の必要性について検証している.

    令和3年度の検証では主として,発がん性を有するVOC及びPAH に着目し,模擬的な火災環境を作製し,実際の火災現場で使用されている防火衣への付着状況の把握を行った.その結果,VOC及びPAH の発生を確認し,防火衣に付

    着することが明らかになった.将来的な健康被害のリスクを低減させるためには,火災があった部屋の早期の積極的な排煙,防火衣等の各種装備品に対し現場での除染,二次汚染の防止のため密封して保管し,帰署後に除染を行うことが必要である.

  • 遠藤 雄大, 三浦 崇, 庄山 瑞季, 崔 光石
    原稿種別: 研究紹介
    2023 年 16 巻 1 号 p. 99-102
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    [早期公開] 公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

    静電塗装は,静電気力(クーロン力)を応用する塗装方法であり,優れた塗着効率等のメリットから,労働現場において広く使用されている.一方で,コロナ帯電式の液体静電塗装では,高電圧(-30 kV ~-60 kV)を使用すること,可燃性液体塗料を一般的に使用することから,異常(着火性)静電気放電等による火災・爆発の危険性がある.これまで国内では,可燃性液体塗料用静電ハンドスプレイ装置の着火に対する安全性能やその定量的評価手段が具体化されておらず,国内の装置メーカーやユーザーは,海外の規格(EN 50050-1:2013)を参考に安全対策を講じる必要があった.このような状況を踏まえて,当所では「可燃性液体塗料用静電ハンドスプレイ装置の安全要求事項および試験方法に関する指針作成委員会」を設置し,国内・国際的な情勢および防爆に関する安全規格などを考慮したほか,当所の研究成果を取り入れた指針原案を作成し,審議の末に成案を得たため,これを基に当所の技術指針(JNIOSH-TR-49:2021)として2022年3月に公表した.本稿では,本指針が対象とするコロナ帯電式液体静電塗装について解説した後,液体静電塗装に関係する火災事例を紹介し,最後に本指針の内容について説明する.

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