労働安全衛生研究
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事例報告
小規模事業場にICTメンタルヘルスツールを普及させるための実装戦略
今井 鉄平 佐々木 那津森本 英樹堤 明純
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2024 年 17 巻 1 号 p. 27-33

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抄録

労働者50人未満の小規模事業場では,メンタルヘルス対策が十分に浸透していないことが課題の1つとなっている.職場のメンタルヘルス対策として一定の科学的根拠が確認され, 推奨されている職場における組織的な介入をサポートする自己学習型のInformation and Communication Technology(ICT)メンタルヘルスツールを小規模企業に普及させることで,対策の具体的イメージを持つ小規模企業の経営者・担当者を増やしたい.そのために必要な実装戦略を,実装科学のフレームワークを用いて検討した.「実装研究のための統合フレームワーク(Consolidated Framework for Implementation Research: CFIR)」の枠組みに沿った検討からは,阻害要因としては「経営層の知識と関心の不足」が課題と考えられた.このような経営層に対して,日頃から身近な相談先となっている各種支援組織(例:商工会議所、社会保険労務士)からアプローチする方法が実装戦略として適していると考えられた.抽出された課題に対して,The Expert Recommendations for Implementing Change(ERIC)の実装戦略の体系からは,「ステークホルダーの訓練と教育に関する戦略」が推奨されることがわかった.支援組織の訓練と教育においては,組織の活動レベル(①情報拡散機能、②情報伝達機能、③コンサルティング機能)に合わせた配信内容を研究班側で準備していくことが重要であると考えられた.職域における社会課題を改善するための取り組みにおいて,実装を開始する前に課題に適合する戦略をよく検討することの意義は大きい.セッティングや課題を変えても,今回のような検討のプロセスは適応可能であると考えられる.

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© 独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
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