2024 年 17 巻 1 号 p. 3-18
掘削工事中に溝が崩壊して作業者が被災する事故は後を絶たないが,その中に深さが浅いにもかかわらず土砂に埋没して重篤な被害を受けるケースがある.溝掘削工事では通常深さ1.5 m以上が土止め支保工を設置する目安とされるが,作業者はそれより浅い条件でも被災している.本研究では,このような浅く小規模な工事での労働災害の防止に焦点を当て,作業者を崩壊した土砂から遮断して被災を防ぐ土砂遮断システムを考案した.本システムは交差フレームの両側面に受圧シートを張った簡易で軽量な構造体であり,溝内に直方体状の作業空間を簡便に設けるものである.その内部で仕事をすれば作業者は崩土から遮断されるため埋没の危険が無くなる.従来の土止め支保工は崩壊そのものを発生させない堅固な構造物であったのに対し,土砂遮断システムは作業者の被災防止に機能を特化させた.本研究では荷重の載荷試験から支持強度を確認すると共に,実大規模の溝崩壊実験から崩土の作用機序や装置の遮断性能を調査した.崩土を受圧して生じたシート張力は交差フレームを開口させる方向の力に変換される.その力は梁を外側に張り出させ,溝肩と溝下端を水平支持するため崩壊は抑制される.ここで各部が負担する荷重はその最大強さに比べて十分に小さく,また本システムに設けられる内部空間は作業者の被災を防ぐ大きさであることがわかった.本論文では土砂遮断システムの性能的な知見を述べ労働災害の防止を議論する.