2025 年 18 巻 1 号 p. 23-30
近年,客観的な労働時間の把握を通した長時間労働削減のための取り組みが進められている.しかしながら,一部では事業場で記録されていた労働時間と実労働時間の間に乖離があることが指摘されている.本研究では,事業場における労働時間把握方法の実態について検討することを目的とした.また,業種・従業員規模・時間外労働との関連についても検討した.無作為に抽出した35,000事業場の安全衛生管理担当者に調査協力依頼を行い,回収した3,587事業場の回答データを分析対象とした(回収率:10.2%).分析の結果,“タイムカード,ICカード”による労働時間把握を行っている事業場が約7割であり,客観的な労働時間把握方法を用いていない事業場が約2割であった.また,客観的な方法による把握の割合が“製造業”や“卸売業,小売業”で高いなど,業種ごとに傾向が異なっていたことが示された.さらに,客観的な方法による把握の割合は従業員規模が“10~29人”の事業場で低く,客観的な方法による把握の割合が高い事業場では“80時間超100時間以下”の時間外労働を行っている労働者が少ない可能性が示された.これらの結果を踏まえ,労働時間の把握状況の実態とその影響について解明していくことが求められる.