抄録
刑務所入所当初から幻覚や妄想,病識欠如により,処遇が困難であった統合失調症の受刑者(以下,A氏)に対して,作業療法を実施した.介入初期は,刑務所職員とA氏に合わせた工場の開設と対応方法について検討し,信頼関係を築くために傾聴を重視した.A氏の病状の悪化に伴い,刑務所職員と薬物治療の重要性に対する共通認識が育まれ,A氏の薬物治療を開始することができた.その後も,病状に合わせた介入により,A氏は工場へ継続的に参加し,特別改善指導も受講でき,出所後の通院服薬の継続へ至った.今回は,これまで作業療法士が関わる機会の少なかった刑務所という特殊な環境の特性をいかし,刑務所職員との連携を重視した介入であった.