2006 年 41.3 巻 p. 905-910
本研究は、昭和初期の民間保勝運動の全容把握のための初手として、日本保勝協会の活動の背景、実態、理念を明らかにすることを目的とする。日本保勝協会は、1928年に専門家と一般大衆との中間を志向し、各地の民間保勝団体の支援を目的に設立された民間団体であった。主な事業は、権威性と通俗性の両立を目指した機関誌の発行、及び全国の保勝会との協働の場を提供することも意図した旅行会の開催であった。しかし、両事業とも、保勝から観光へという大きな潮流の影響下で、当初の方針を維持できず、保勝運動に対する先導性を失っていった。しかし、日本保勝協会が有していた保勝運動理念は当時の民間保勝運動を理解する上で重要である。国本尊重を前提とした公の理念の下という限定条件付ではあったが、民間保勝運動を単に政府の事業の下部組織とするのではなく、独立した運動として編成する構想を有していたのである。