抄録
本研究では,高齢者が居住環境において歩行活動を行う上で快適性が得られる質的要件について,散歩という日常的に行われている活動から抽出すると共に,散歩の観点から考える伝統的町並み環境の整備のあり方について検討する.重要伝統的建造物群保存地区に選定され,高齢者居住率が比較的高い八女市福島地区において,高齢者の散歩実態と町並みに対する意識調査を実施した結果,以下の成果を得た.1)福島地区の高齢者の散歩は歩くこと自体を主目的としていること,2)散歩ルートは規模に関係なく単調に形成されながらも,自然景観や道路景観の変化を含めることでめりはりをつけたルート形成がなされていること,3)自然の有無,安全性,道路景観の変化に加えて人々の活動風景や通行量も散歩者に好まれること,4)散歩による歩行活動が町並みに対する意識の変化に影響を及ぼす可能性が示唆されること.