抄録
本研究ではウジェーヌ・アジェ(Eugene Atget :1857-1927)により古きパリとして撮影された古きパリの地誌シリーズのうち、フランス国立図書館デジタルアーカイヴに所蔵されている写真を対象として、19世紀末から20世紀初頭のフランスにおけるピトレスクの概念についての景観特性を考察することを目的とする。結論として、アジェの写真におけるピトレスクの概念は、オスマンの都市改造に真っ向から対抗するものであった。オスマンのパースペクティブを重視した都市計画に対抗して、前近代の曲線や不規則な街路を好んだことが明らかになった。更に、単純な中世的景観ではなく、界隈の生活感を重視し、細部まで生き生きとした個性的な建造物が存在するパリを求めていたことが明らかになった。今後、アジェの他地区の写真について研究を遂行し、更にアジェのピトレスクの概念の傾向について探る必要があると考えられる。