近世薩摩藩では郷や麓集落からなる独自の地域構造を有していた。本研究では麓集落が形成された地理的・歴史的環境を捉えるために、地域の自然環境要素、および歴史的な新田開発に注目し、統計的解析を踏まえた考察によって、麓集落内の伝統的建造物・工作物に限らない麓集落の立地構成と景観特性を明らかにすることを目的とする。まず、薩摩藩全域を対象とする解析によって得られた自然環境要素による地域類型は、AからHの8つに分類され、そのうち4つの類型に麓集落が立地することが分かった。さらに、各地域類型における新田開発の特徴を把握すると、新田開発は類型Hに最も多くみられ、歴史的な土地利用の状況を明らかにした。そして、これらとの関係からみた麓集落の立地特性や景観特性を考察すると、麓集落はIからIVの4つに分類され、II・IIIは伝統的な麓集落の特性を示し、I・IVは地域開発と連動した新しい型の麓集落の特性を示す。このように流域圏に注目した統計的解析によって麓集落の立地構成と景観特性を総合的に把握できることを示した。