抄録
洪水時の水防活動は、治水施設とともに洪水氾濫の防止に重要な役割を果たす。今日、各地で水防態勢の強化が図られているが、その際、過去の時代に水防の組織や態勢がどのようにつくられたかを振り返ってみることも必要であろう。本研究は、江戸時代から明治前期まで、明治中期から戦前まで、戦後から現在までの3期に分け、それぞれの時代について水防組織の成立と変遷を分析する。今回は江戸時代から明治前期を対象とし、信濃川筋白根郷、大井川下流右岸、木曽三川輪中地帯を取り上げる。
江戸時代における水防態勢の特徴を整理すると (1) 江戸時代には水防態勢はよく整備され、その内容も今日とあまり変らず、今日の原型をなしている。(2) 水防は、地域住民だけでなく為政者にとっても重要な課題であり、為政者は水防態勢の強化にたえず努めた。(3) 水防は農村ばかりでなく、都市の生活にとっても重要であった。