抄録
わが国における道路交通史の研究は文献に重点が置かれ、この面では多くの成果が得られている。しかし多くの文献は、国史と称される資料である。国史は概して統治する側の立場記録されており、一般の交通状況を把握するには、やや難点があると云わざるを得ない。この点、絵巻はより具体的な記録として貴重なものである。また、実感としてとらえることができ、道路と交通の技術的な史資料として極めて示唆に富む内容を含んでいる。この絵巻をもとに平安末期から主として鎌倉時代における道路と交通の実態を探り、特に一般的な生活の中における道路の状況、橋の様子、牛車 (荷物運搬用) の利用に着目し、従来の研究では、あまり触れられていない面に関して、考察を試みたものである。また交通の基本的機能と当時の交通実態との関連を対比し、歴史的な変遷の過程について若干の推論を行った。