日本土木史研究発表会論文集
Online ISSN : 1884-8133
Print ISSN : 0913-4107
ISSN-L : 0913-4107
近世文書にみる堤高に関する研究
石崎 正和
著者情報
キーワード: 近世文書, 河川堤防, 堤高
ジャーナル フリー

1989 年 9 巻 p. 89-93

詳細
抄録

河川堤防は, 古来より洪水防御のための河川構造物として重要な役割を果たしてきた。しかし, その堤防の計画手法に関する歴史的な考察はほとんど行われていない。本稿では, 堤防の断面形状を示す要素である, 堤高, 天端幅, 敷輻, 法勾配のうち, 地方書や農書などの近世文書では全く触れられていない堤高に着目して, その計画手法の一端を明らかにするものである。現在の治水計画における堤防の高さは, 計画高水位に余裕高を加えて決定される。こうした堤高決定方式の萌芽をファン・ドールンが明治6年に著した「治水総論」にみることができる。しかし, 明治以前においては, 計画高水位という概念はみられない。つまり, 近世における堤高の決定は, 堤防の増築経緯からみて, 過去の洪水を考慮して経験的に決められ, その後の出水に対応して嵩上げを行う方式が採用されていたものと考えられる。また, 堤高や出水位の表示は「平水」「常水面」「常水位」といった水位を基準に示されており, 低水あるいは平均水位のような低い水位が, 計画面で採用されていた。したがって, 舟運のための航路維持や農業用水の安定取水といった河川の利用面から把握されていたであろう, 低水や平水時の水位を基に基準水位を決定し, 堤高はこの基準水位上何尺何寸として計画され, 明治以降の計画高水位を基準とした堤高決定方式とは全く異なる手法が採用されていたものと考えられる。

著者関連情報
© 社団法人 土木学会
前の記事 次の記事
feedback
Top