1989 年 9 巻 p. 95-102
吉野川の歴史という課題を掲げて何回か発表を続けてきた。その方法は、その都度多くの資料を一定の考え方のふるいにかけて選り分け、それぞれについて議論をしたものである。この考え方が各回の副題になっているのはいうまでもない。こうすることにより川のいろいろな面が、多次元的に見えてくると考えたからである。このような手段による報告も、8回を数え一応の量にもなったので、これを纒めてみた。
ただここで纒めるというのは、単に吉野川の周辺で起きた事件を編年的に並べることを意図したわけではない。このような事件の裏で、例えば住民の意識の変化が起きたか、川を見る目に変化が起きたか、これを問題することでなければならない。このために本研究会で発表した論文だけでなく、徳島科学史雑誌に投稿した経験などを活用してみた。
さらに、これらを一つの体系の中に位置付けるため、誤解を覚悟であえてゲーテの自然学と呼ばれ、自然を対象化し制御しようとするものでない、新しい人間と自然の関係を求めるといわれる考えによってみた。