1998 年 18 巻 p. 363-372
本論文は、城郭の石垣以外にあまり評価されてこなかったわが国の石造構造物の中に、石を円弧状に長く巻いて積む「巻石」と呼ばれる美しい権造物の一群があることに着目し、その種類、地域、時代、目的などを調査した第一報である。現時点で判明している限り、「巻石」構造の起源は、戦国末期から江戸初期にかけて治水戦略上の目的で造られた水刎 (はね) に求めることができる、以後、岡山、熊本を中心として治水、河川舟運用の各種水制工、避難港の防波堤などで「巻石」構造のさまざまなバリエーションが造られてゆき、昭和戦後になってほとんどすべての構造物がコンクリート化されるまで続く。「巻石」構造の特徴は、西欧のそれとは大きく異なり、断面方向にも、長手方向にも曲面が用いられている。それは、技術の限界と、自然の力に逆らわない発想とが融合することで生まれた巧みなフォルムであるが、そこに日本ならではの美を感じることも、今日的には重要な価値観ではないかと感じている。