抄録
本稿では, 社会科学・社会哲学と土木との関連を吟味することを通じて, これまでの土木計画学研究に, 二, 三の新たな視点を付与できるか否かを検討した. まず, 土木計画学で, システムズ・アナリシスに代表される最適化の思想は一定の有効1生を持っているものの, 多様な要素が複雑に関連しあう “社会” の問題に適用することは必ずしも正当化し得ないことを論証した. その上で, 社会的最適化を放棄するのなら, 計画の方向を指し示す「正義論」が不可欠となるという点を指摘し, そのためには社会的ジレンマという概念が有効であり, かっ, その解消を目指す処方的 (プリスクリプティブ) アプローチが重要であることを指摘した. その上で, 交通, 防災, 土地利用, 地域振興, 合意形成, 景観・風土といった諸問題において, いかなる処方的アプローチが可能であるかを論じた. 以上を通じて, 実務においては社会を快方へと導く日々のマネジメントが, そして学問においては態度と行動の変容に着目した社会心理学と, 風土に胚胎する真・善・美を踏まえた上で正当な政治的判断を見極めるための政治哲学が, それぞれ重要な役割を担うという点を指摘した.