2018 年 7 巻 1 号 p. 33-45
大正後期から昭和初期にかけて、 東京帝国大学に所属する教員及び学生が、 労働意識・文化的な啓発を目的とした住民の貧困救済活動を行った。 この活動は、これまで我が国のボランティア活動の原点ととらえられ、政治学、経済学、 社会福祉学の側面から論じられてきた。その背景には、貧困について大学人が示した大正デモクラシーの良心と社会体制、 特に労働運動との関連があった。 本研究は、この東京帝国大学セツルメントを世代間交流の視点で見直し、セツルメントに従事した 学生らが広げた社会貢献の事業を相互互恵性の観点から再検討を行った。これまでの研究では、この互恵性が、今日の生活協同組合につながる協同的な観点や組織性として強調されて来た。 また、 学生ボランティア活動は、各地の大学を中心に活発に行われているが、その活動の意義とセツルメントとの関連性を検討して、学生の学習に関連づける報告はほとんど見られない。 本研究では、このセツルメントに於ける目的としての「智識の分与」 と 「社会調査」の概念が、慈善事業の側面でとらえる人と人の触れ合い以上に意義のあることを追究した。 その結果、今日の学生ボラ ンティアは、社会貢献においてセツルメントと同様の意義を持ちつつも、セツルメントを指導した穂 積らが掲げる社会貢献の方向性、すなわち「智識の分与」 と 「社会調査」において、今日の学生が体験す るボランティア活動と東京帝国大学セツルメントでは、時代背景の違いもあり、学生は地域に知識を 伝えるのではなく、 逆に、ボランティア体験から知識を学ぶ傾向が見られる。 本研究から得られる今日の学生ボランティアの体験と東京帝国大学セツルメントが示す協働・共生概念のの相関が、 今後の世代間交流に新たな視点を与えると考えられる。