日本公衆衛生雑誌
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公衆衛生分野における質的研究のあり方
瀬畠 克之杉澤 廉晴
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2002 年 49 巻 10 号 p. 1025-1029

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抄録

 質的研究は社会的経験や自らの感覚を通じて社会事象を科学的に把握できるという世界観に基づき,数値では把握できない社会事象を対象にした分析方法といえる。しかし,質的研究では一般性や代表性が必ずしも問われないこと,あるいは妥当性などの検証が難しいことなどから,量的研究者を中心に質的研究に対する不信感が残っている。
 公衆衛生では健康に関する諸問題を人間や人間を取巻く社会という観点から研究するため,従来の量的研究とともに質的研究を行うことによって公衆衛生の研究に新たな切り口を提供する可能性がある。そのためには,誰もが簡単に行えしかも妥当性が検証された質的研究の標準化プロセスを作ること,あるいは,公衆衛生分野における質的研究の論文形式や査読方法などを幅広く議論することが重要である。
 日本の質的研究はその概念や手法が混乱している状況にあり,それらの諸問題を整理し,さまざまな立場の考え方をとりまとめる必要がある。今後,日本公衆衛生学会総会での自由集会などを利用して質的研究をめぐる諸課題を議論したり,学会誌を通じて議論の成果を公表することなどによって,公衆衛生分野における質的研究者の層を厚くし,質の高い質的研究を行う環境の整備を図ることができるものと思われる。

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© 2002 日本公衆衛生学会
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