日本公衆衛生雑誌
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49 巻, 10 号
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論壇
  • 瀬畠 克之, 杉澤 廉晴
    2002 年 49 巻 10 号 p. 1025-1029
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
     質的研究は社会的経験や自らの感覚を通じて社会事象を科学的に把握できるという世界観に基づき,数値では把握できない社会事象を対象にした分析方法といえる。しかし,質的研究では一般性や代表性が必ずしも問われないこと,あるいは妥当性などの検証が難しいことなどから,量的研究者を中心に質的研究に対する不信感が残っている。
     公衆衛生では健康に関する諸問題を人間や人間を取巻く社会という観点から研究するため,従来の量的研究とともに質的研究を行うことによって公衆衛生の研究に新たな切り口を提供する可能性がある。そのためには,誰もが簡単に行えしかも妥当性が検証された質的研究の標準化プロセスを作ること,あるいは,公衆衛生分野における質的研究の論文形式や査読方法などを幅広く議論することが重要である。
     日本の質的研究はその概念や手法が混乱している状況にあり,それらの諸問題を整理し,さまざまな立場の考え方をとりまとめる必要がある。今後,日本公衆衛生学会総会での自由集会などを利用して質的研究をめぐる諸課題を議論したり,学会誌を通じて議論の成果を公表することなどによって,公衆衛生分野における質的研究者の層を厚くし,質の高い質的研究を行う環境の整備を図ることができるものと思われる。
原著
  • 久野 孝子, 舘 英津子, 小笠原 昭彦, 下方 浩史, 山口 洋子
    2002 年 49 巻 10 号 p. 1030-1039
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 近年の青少年の性行動は,若年化,活発化の傾向にあり,また,人工妊娠中絶実施率は依然高値である。そこで,今回,青少年の性に関する問題意識を調査するとともに,性行動とくに避妊に対する態度を心理学的視点から解明することを主な目的とした。
    方法 愛知県下にある 4 年制大学(4 校)の18~23歳の男女学生計710人(男子;234人,平均年齢±標準偏差20.2±1.1歳,女子;460人,平均年齢±標準偏差19.5±1.1歳,年齢未記入および無効回答 9 人)を対象に2000年 4~7 月に調査を実施した。自己同一性についての「自分の確立」尺度,ローゼンバーグ自尊感情測定尺度(以下:自尊感情尺度)および性に関する態度・行動などについて,無記名自記式の質問紙を用いた。「自分の確立」尺度は,アイデンティティの基礎(以下:「基礎」)とアイデンティティの確立(以下:「確立」)を下位尺度とし,各尺度得点を算出後,年齢および学校・学部を調整しながら,性の項目との関連を比較検討した。
    成績 「自分の確立」尺度における平均合計得点±標準偏差は男子55.3±9.2点,女子52.2±9.3点であり,自尊感情尺度の平均得点±標準偏差は男子27.2±5.5点,女子25.7±5.2点であった。また両尺度間の相関係数は,男女とも高く,有意であった。
     自分の性別に対する認識については,男女とも多くの者が肯定的に捉えており,「伝統的性役割」観に対しては,否定的意見が多くみられ,中でも女子に顕著であった。
     性交に対する意志決定では,男子は82.4%,女子では69.5%の者は相手からの性交要求に応じると答えた。避妊に対する態度では,ほとんどの者がその必要性は認識していたものの,その他の構成要素においては,十分確立されていなかった。最近 1 年間の性交経験率は男子68.3%,女子48.2%であり,そのうちいつも避妊をしている者は男子50.6%,女子58.2%であった。
     避妊に対する態度と「自分の確立」尺度との関連では,男女とも「コミュニケーション能力」,「習得能力」,「入手能力」において,「できる」と回答した者の方が尺度得点が高かった。とくに男子では,「自分の確立」尺度の合計得点,「確立」得点,女子では合計得点,両下位尺度得点に有意差が認められた。また自尊感情尺度では,男子では「習得能力」,女子は「コミュニケーション能力」,「習得能力」において有意差が確認された。しかし,両尺度とも実際の避妊行動との間には,有意差は認められなかった。
    結論 避妊に対する態度と避妊行動との間にずれがみられた。また,避妊に対する態度と自己同一性および自尊感情との関連においては,有意な関係が確認された。
  • 南 雅樹, 出村 慎一, 長澤 吉則
    2002 年 49 巻 10 号 p. 1040-1052
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の目的は,在宅の健常な男性高齢者を対象として,基礎体力と生活習慣および健康状態との関係を明らかにすることであった。
    方法 被験者は60~89歳までの男性高齢者304人であった。テストの安全性,信頼性および実用性を考慮し,筋機能,関節機能,神経機能および肺機能の 4 体力領域から11パフォーマンステスト項目を選択した。生活習慣および健康状態を測定するために40項目からなる調査票を作成した。体力11変量からなる相関行列に主成分分析を適用した。基礎体力に対する生活習慣および健康状態の影響を検討するために,Cramer の連関係数および数量化理論第I類の統計的手法を用いた。
    成績 Cramer の連関係数は,夕食の量にのみ有意であった。基礎体力と年代,生活習慣および健康状態との間に有意な重相関係数(0.596, P<0.01)が認められ,基礎体力と年代,睡眠時間および現在の通院状況の 3 項目の偏相関係数が高かった。
    結論 基礎体力は加齢とともに低下する。睡眠時間のとり方あるいは病気やけがによる通院のないことが基礎体力の低下と関連があると推測された。
  • 蓮尾 聖子, 田中 英夫, 木下 洋子, 木下 典子, 大島 明
    2002 年 49 巻 10 号 p. 1053-1061
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 喫煙者が,がんの診断,および入退院を契機にどのように喫煙行動を変化させたかを把握する。また,社会復帰後の喫煙行動とこれに関連する要因を調べ,退院後の再喫煙防止に向けた効果的な指導の時期や方法を考えるための情報を得る。
    方法 調査対象は1995年~96年に大阪府立成人病センターで新たに胃がん,または口腔・咽頭・喉頭がんと診断され,入院治療を受けた患者のうち,初診時点で喫煙していた者で,かつ対象者を選択する1998年 7 月時点で生存しており,喉頭全摘術を受けていなかった者とした。同年 8 月に記名自記式の調査票を郵送し,入院前日,入院当日,退院前日,退院 2 日目,および退院から18か月以上経過した時点(以下,社会復帰後とする)での喫煙行動を把握した(回収率72.6%:138/190)。院内がん登録より得た臨床進行度や入院期間等の情報を調整し,退院するまでの喫煙行動パターンと社会復帰後の喫煙行動との関連を多重ロジスティック回帰分析で検討した。
    結果 女性 3 人,入院期間が 2 日であった 1 人を除く134人の入院前日,入院当日,退院前日,退院 2 日目,および社会復帰後の各時点における断面禁煙率は,10.4%,32.6%,71.9%,40.0%,51.0%であった。入院当日は入院前日に比べて,また退院前日は入院当日に比べて断面禁煙率が有意に上昇していた(各々 P<0.001)。入院前日にタバコを吸わなかった者における社会復帰後の断面禁煙率は92.9%,入院前日にタバコを吸っていたが入院当日にはタバコを吸わなかった者におけるそれは80.0%であった。また,入院前日・当日,退院前日の何れの時点でもタバコを吸っていた者におけるそれは13.0%であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,がんの部位(頭頸部/胃),入院前日にタバコを吸わなかったこと,入院前日はタバコを吸っても入院当日にタバコを吸わなかったこと,は有意な社会復帰後の禁煙成功要因であった。高齢者(61歳以上),入院期間の長い者(32日以上),および医療従事者による明確な禁煙の指示を受けた者では,社会復帰後の禁煙確率が高くなる傾向があったが,統計学的有意性を認めなかった。
    結論 がん患者の喫煙行動は,入退院を契機に大きく変化していた。退院するまでの喫煙行動の変化と社会復帰後の喫煙行動との間には,強い関連が認められた。
  • 小林 秀紹, 出村 慎一
    2002 年 49 巻 10 号 p. 1062-1069
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 今日,青年期における疲労の訴えが問題視されている。特に慢性疲労は,慢性疲労症候群に発展する可能性もある。本研究の目的は,Performance status(P.S.)の自己評価に基づく慢性疲労と青年用疲労自覚症状尺度 SFS-Y による疲労自覚症状との関連を明らかにした。
    方法 15歳から18歳の健康な学生男女548人,および16歳から18歳の男子608人を対象に,24項目からなる SFS-Y(6 下位尺度:集中思考困難,だるさ,意欲低下,活力低下,ねむけおよび身体違和感)と P.S. の調査を行った。判別分析およびロジスティック回帰分析によって,慢性疲労に対する疲労自覚症状の貢献を検討した。
    成績 以下のことが明らかにされた。
     SFS-Y は P.S. を高い確率(74.0~81.4%)で判別することが可能である。
     SFS-Y による慢性疲労の判別確率は異なる標本においても一定の水準にある。
     集中思考困難に関する疲労自覚症状は,慢性疲労時に生起する症状と考えられる。
    結論 SFS-Y は青年期の慢性疲労を判別する有効な尺度であり,慢性疲労は集中思考困難の関与が高い。
  • 早坂 信哉, 中村 好一, 梶井 英治
    2002 年 49 巻 10 号 p. 1070-1075
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 市区町村社会福祉協議会が提供する高齢者入浴サービスである訪問入浴,施設内入浴について関連する事故の発生頻度をそれぞれ明らかにする。
    方法 対象:高齢者入浴サービスを実施している全国の市区町村社会福祉協議会(以下社協)444か所が対象であり,そのうち入浴に関連する事故の経験がある社協102か所を調査した。
     調査,解析方法:2001年10月に郵送自記式調査を実施した。訪問入浴サービス,施設内入浴サービスの各々について,入浴サービス開始年月,2000年度の入浴延べ件数,および過去 5 年間のうちの入浴サービス実施期間の入浴に関連する事故件数を調査した。これらの項目につき過去 5 年間の入浴延べ件数を推定し,事故経験のある社協における入浴 1 万件あたりの事故件数を計算した。加えて入浴サービスを実施している社協全体における入浴 1 万件あたりの事故件数を計算し,日本全体における年間事故件数を推定した。
    結果 調査票の回収率は93%(回答数95)だった。5 年間の 1 社協あたりの延べ入浴件数(平均±標準偏差)は訪問入浴が4,245.0±4,637.7件,施設内入浴が22,235.3±37,259.4件で施設内入浴が多かった。事故経験のある社協における 5 年間の事故件数は訪問入浴が0.57±2.95件,施設内入浴が0.63±1.73件でほぼ同じだった。しかし入浴 1 万件あたりの事故件数は,訪問入浴が1.33件,施設内入浴が0.28件で訪問入浴が多かった。入浴サービスを実施している社協全体における入浴 1 万件あたりの事故件数は,訪問入浴が0.204件,施設内入浴が0.067件で訪問入浴が多かった。日本全体における年間事故件数を推定すると訪問入浴が63.1件,施設内入浴が149.1件であった。
    結論 入浴 1 万件あたりの事故発生率は,訪問入浴が施設内入浴より高く,福祉担当者や家族は注意を喚起する必要がある。
公衆衛生活動報告
  • 小笹 美子
    2002 年 49 巻 10 号 p. 1076-1086
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,脳卒中を発症したすべての個人・家族が地域における生活を再構築するための支援,とくに軽症の脳卒中発症者やリハビリによる自立生活再獲得者への支援について検討する基礎データとして,地域における脳卒中発症者を悉皆的に把握し,脳卒中登録の情報源,病型別脳卒中発症率,医療機関退院時の自立度と介護状況について明らかにし,保健師の役割について検討することを目的とした。
    方法 1983年から1996年に島根県宍道町で,脳卒中を発症したと疑われる669件の情報について,保健師が家庭訪問等を行い脳卒中の初回発症を確認した323人を分析対象とした。脳卒中の定義は沖中らの厚生省研究班のものに準じた。寝たきり度,介護状況は退院時もしくは急性期経過後の状態によって分類した。
    結果 1) 1983年-1996年に323人の初回脳卒中発症登録が行われ,登録の情報源は医療機関からの情報8.7%,保健師活動14.6%,死亡届26.0%,レセプト48.8%,不明1.9%であった。
     2) 宍道町の40歳以上人口千対発症率は,男性5.3,女性3.5,病型別では,脳出血0.9,脳梗塞3.1,クモ膜下出血0.3であった。平均発症年齢は72.1歳,50%生存期間は71月であった。
     3) 寝たきり度が把握できた166人の医療機関退院時の障害老人日常生活自立度は,自立64.5%,準寝たきり9.0%,寝たきり26.5%であった。
     4) 介護状況が把握できた160人の医療機関退院後および急性期経過後の介護状況は,介護不要56.9%,介護が必要43.1%であった。介護必要者のうち,家族による介護は69.6%,入所・入院は30.4%であった。家族による介護のうち配偶者は58.3%,子供・孫は10.4%,嫁は31.3%であった。
    結論 保健師が長期間継続して脳卒中登録に関わり,医療機関からの情報のみでなく死亡届やレセプトによる情報を家庭訪問により確認することで,地域の脳卒中発症を悉皆的に把握できることが明らかになった。また,脳卒中発症後自立生活を行っている軽症の発症者の再発予防に対する10年以上の長期にわたる健康管理支援が保健師に求められていることが示唆された。
  • 西河 英隆, 高橋 香代, 宮武 伸行, 森下 明恵, 鈴木 久雄, 田中 俊夫, 吉良 尚平, 藤井 昌史
    2002 年 49 巻 10 号 p. 1087-1096
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 中年男性肥満者を対象に,それぞれの歩数や体力の評価に基づいた運動処方を行い,一年間の運動プログラムを作成し,作成したプログラムの効果を継続率,ライフスタイルの変化,体力を指標に評価することを目的とした。
    方法 対象は BMI 26.4 kg/m2 以上で30歳から59歳の男性61人であった。運動プログラム作成と評価のために,健康関連体力,1 日平均歩数を測定し,生活習慣状況調査,食事調査を行った。それぞれの測定および調査は,運動プログラム前と運動プログラム終了後に実施した。
     運動プログラムは,1 年を 4 期に分けて目標設定を行い,その目標設定に応じた運動や講習の内容を作成した。各期の指導目標は,第 1 期「運動による障害を起こさない身体づくり」,第 2 期「日常生活活動量の増加」,第 3 期「運動,スポーツを楽しむ」,第 4 期「自分の運動メニュー作成」とした。運動プログラムでは,週 1 回の定期的運動習慣と,ライフスタイルチェックを用いた活動的な生活習慣の両面から介入を行った。
    結果 運動プログラムの継続率は66%で,多忙な中年男性を対象にし,しかも 1 年間という長期にわたる介入としては,非常に高い継続率であった。
     1 年間にわたる運動プログラムにおいて実施したライフスタイルチェックでは,「運動に関する肯定的感情」,「生活場面での運動」,「運動習慣」の 3 項目の平均点が前値より 6 か月後で有意に増加し,1 日平均歩数は,約2,000歩弱の増加傾向を認め,本プログラムが日常生活での生活習慣の改善に有効であったことが示唆された。
     運動プログラム前後の身体組成の変化は,体重(前81.5±7.4 kg,後78.6±7.3 kg P<0.001),体脂肪率(前30.3±4.1%,後28.4±5.0% P<0.001),ウエスト・ヒップ比(前0.95±0.04,後0.92±0.04 P<0.001)と,いずれの項目も有意な減少を認めた。体力は,全身持久力,筋力の向上を認めた。
    結論 本プログラムは,高い継続率,生活習慣の改善,身体組成の改善,体力の向上などの効果をもたらし,中年男性肥満者に対して有効と考えられた。
  • 中山 佳美, 太田 正樹, 一色 学, 森 満
    2002 年 49 巻 10 号 p. 1097-1106
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 学生を対象とした臓器提供意思表示カードに関する教育の効果を評価する研究を行った。
    方法 平成12年に保健所医師が北見市内の学生を対象に臓器提供意思表示カードに関する教育を実施した。そして,前後比較デザインに基づいて,教育前後で意識,知識および行動に関する質問調査を実施し,その効果を評価した。調査の対象となった学生は548人で,看護系学生,大学生,福祉系学生の 3 群に分けて比較した。
    結果 調査対象者のうちでの回答者数は,教育前は432人(78.8%),教育後は359人(65.5%)であった。
     1. カードの認知度は94.2%で 3 群間に有意差があり,看護系学生で認知している者が多かった(P<0.05)。
     2. カードの正しい知識については,どの群の学生も教育後の方が正しい知識を持つ者が増えた。
     3. カードの所持率は,教育前は看護系学生が高く,教育後は福祉系学生がカードを所持する者が有意に増加した(P<0.001)。
     4. カードを所持した理由は有意差があり,看護系学生で「関心があるから」,大学生で「よくわからないけど持っている」,福祉系学生で「他の人にすすめられたから」が多かった(P<0.01)。
     5. カードを所持する意思表示をしない理由は,教育後で看護系学生は「臓器を提供したくないから」,大学生や福祉系学生は「臓器を提供したくないから」や「関心がないから」が多かった。
    結論 カードに関する教育は知識の啓発だけではなく行動の動機づけになることが示唆され,カードの普及啓発に役立つと考えられる。
資料
  • 松鵜 甲枝, 鷲尾 昌一, 荒井 由美子, 森 満, 井手 三郎
    2002 年 49 巻 10 号 p. 1107-1116
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 訪問看護ステーションを利用している要介護高齢者の在宅療養の破綻に関わる要因について検討するために,入院・入所に関わる要因を明らかにする。
    方法 1993年 4 月から1998年 3 月までの 5 年間に S 訪問看護ステーションを利用した要介護高齢者395人を対象に後ろ向きコホート研究を行った。ベースラインを訪問看護ステーションの利用時とし,追跡期間を利用開始から 6 か月,1 年,2 年間とした。
    結果 1. 6 か月間の追跡では,悪性新生物に罹患していることと ADL 障害が軽度であることが,1 年間,2 年間の追跡では ADL 障害が軽度であることが入院・入所のリスク要因であった。
     2. かかりつけ医が診療所の医師である場合は総合病院の医師である場合よりも追跡期間が,6 か月,1 年,2 年のいずれの場合においても在宅療養は継続していた。
     3. ショートスティの利用が必要と訪問看護婦が判断したケースでは,追跡期間が,6 か月,1 年,2 年のいずれの場合においても在宅療養の継続は困難であった。
    結論  ADL 障害は高度であるよりも軽度であることの方が入院・入所のリスクを高めており,在宅を継続するための支援サービスは要介護高齢者の ADL 障害だけで考えてはいけない。
     在宅療養の継続のためには身近な診療所の医師をかかりつけ医とすることの必要性が示唆された。
  • 劔 陽子, 山本 美江子, 大河内 二郎, 松田 晋哉
    2002 年 49 巻 10 号 p. 1117-1127
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 アメリカにおける人工妊娠中絶に関する法律とその実際,10代の望まない妊娠対策などを調査することにより,わが国における10代の望まない妊娠対策の方向性を探る。
    方法 アメリカにおける中絶,家族計画などについて書かれた出版物,政府機関や主要 NGO 等が発行している文献・統計資料,ホームページから情報収集を行った。さらに,関係諸機関を訪問して現地調査を行った。
    成績 アメリカでは人工妊娠中絶の是非について,今だ中絶権擁護派と中絶反対派の間で議論が交わされており,社会的,政治的にも大きな問題となっている。こういった背景を受けて,中絶前後のカウンセリングや家族計画に関するカウンセリング,性教育などに重きがおかれていた。
     10代の望まない妊娠対策の一環として,特に若者だけを集めるクリニックや,ヤングメンズクリニックなどの施設が設けられ,若者が性に関する情報や,安価もしくは無料の避妊具・避妊薬を入手しやすい状況にあった。
    結論 アメリカにおいては,中絶権擁護派と中絶反対派では人工妊娠中絶に対する考え方が異なっており,10代の望まない妊娠対策に対しても統一された方法はなく,さまざまな方法論がとられている。しかしアメリカにおける10代の妊娠率,人工妊娠中絶率は低下傾向にある。10代の性行動の活発化や人工妊娠中絶率の増加が危惧されるわが国において,今後10代の望まない対策を打ち立てていくとき,こういったアメリカで既に取り組まれている対策に学ぶべき点は多いと思われる。
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